#24「LOBO★マイフレンド」

知られざる最後のオオカミの物語──その名は「ロボ」

飛騨高山・久々野町。
国道沿いの草むらで母を亡くした一匹の“子犬”と、年長さんの少女・りんごが出会うところから物語は始まります。

成長とともに、次第に周囲から「異質な存在」として扱われていくロボ。
しかし、りんごにとってロボは“友だち”であり“家族”であり、かけがえのない存在でした。

守るために牙をむいたとき、
愛するがゆえに手放さなければならなかったとき、
子どもと動物の間に芽生えた絆が、あなたの心に静かに火を灯します。

そして最後に、明かされるロボの“本当の正体”。
これは「もういないはずの命」と「小さな命」の奇跡の物語です。

【ペルソナ】

・LOBO(0歳〜)=りんごに拾われた狼の子ども(CV=坂田月菜)※「lobo」はスペイン語で「狼」

・りんご(5歳)=久々野町の幼稚園年長さん。(CV=坂田月菜)

・ママ(28歳)=りんごのママ(CV=岩波あこ)

・パパ(32歳)=りんごのパパ(CV=日比野正裕)

・ニュースアナウンサー=宮ノ下さん(カメオ)

【参照:日本オオカミ協会】

日本オオカミ協会
Q&A | 日本オオカミ協会 オオカミに対する偏見を正し、誤解を解くために!オオカミ復活についての疑問に答える最新Q&Aオオカミのいない日本の生態系(=国土)は、シカの増えすぎによって荒廃し続...

<シーン1/久々野町・国道41号沿いの草むら>

◾️SE/急ブレーキの音と狼の悲鳴

※りんごのモノローグは主観ではなく客観的な視点

「おかあさん!おかあさん!どうしたの?なんで返事してくれないの?」

久々野町、国道41号線沿いの草むら。

車に跳ねられ、飛ばされた野犬が横たわっていました。

その横には、小さな子犬が1匹。

冷たくなった母の乳房をしゃぶりながら泣いています。

濃い茶色の体毛。

長い脚。

尻尾は丸く湾曲して、耳は短い。

やがて、乳が出なくなった母の亡骸から子犬は離れていきます。

ふらふらと国道に歩いていきました。

「あぶない!」

「えっ?」

目の前を、おおきなトラックが走り去っていきます。

子犬は女の子に抱えられて、一緒に道の端で尻餅をつきました。

女の子の名前は、りんご。

この春、5歳になったばかりの年長さんです。

「よいしょっ・・」

と、お尻の土を払って立ち上がったりんごは

「あぶなかったねー」

と言って、子犬の頭を撫でます。

子犬は抱っこされたまま、牙を剥きました。

「ウ〜ッ」

「こら、助けてあげたのに怒っちゃだめでしょ。

りんご、年長さんになったから知ってるもん。

親切にされたら『ありがとう』って言うんだよ」

「くう〜ん・・」

「よしよし。

もう道路に飛び出しちゃだめだよ。

じゃあね。ばいばい」

りんごは、抱っこした子犬を草むらに戻して

おうちに帰っていきました。

ところが・・・

「おかあさん・・・」

りんごのあとを少し離れて、子犬はついてきちゃったのです。

おうちまであと少し、という農道。

踏切を越えて果樹園の前を通ると、

葉摘み(はつみ)をしているおじさんがこっちを見て笑っています。

りんごが振り返ると、後(あと)についてきているのは、あの子犬。

距離を保ったまま、子犬も止まっていました。

「あれぇ?

ちびちゃん、ついてきちゃったの?」

りんごはしゃがんで、子犬を手招きします。

子犬は・・・少し悩むような顔をしてから

ゆっくり近づいてきました。

「どうしよう・・・

ママ、犬、きらいって言ってたよなあ・・」

「ねえ、いい子にできる?」

子犬はなんにも言わずにりんごを見ています。

「できるよね?」

子犬はりんごを見て、首をかしげています。

「もう〜。いい子にしないと、追い出されるんだってば!」

りんごが頭を撫でると、子犬は初めてすり寄ってきました。

<シーン2/久々野町・りんごの家>

◾️SE/食卓の音

「ちゃんとりんごが自分で面倒みるのよ」

意外なことに、

おかあさんは、飼うことを許してくれました。

もちろん、りんごは大喜び。

おとうさんが、子犬に名前をつけました。

ふた文字で「ロボ」。

りんごは、あんまり気に入りませんでしたが、

飼えることになったので、文句は言えません。

それからは、ロボの世話で大忙しの毎日。

朝、りんごが目を覚ますと、ロボはベッドの横。

黙ったままじいっと座っています。

ダンボールで作った寝床はいやみたい。

りんごは背伸びをして体を起こし、ロボを抱っこして、お外へ。

「おしっこだよ〜」

声をかけると、ロボはお庭から続いたりんご畑へ駆けていきました。

 

ロボは、決して吠えません。

代わりに、低い唸り声や、かすれたような声を出します。

時どき、深夜、満月に向かって遠吠えをしました。

「ロボちゃんはおりこうね。

キャンキャン言わないから、ママに怒られない。

りんごも見習わないと」

でもママは、あまり嬉しそうではありませんでした。

可愛げがない子犬、って映ったのかも・・

お散歩も大事なお仕事。

毎朝、ロボを連れて果樹園の周りを散歩に出かけました。

そんなある日のこと。

散歩の途中で大きな黒い犬が、行く手に現れました。

「あ!おっきな犬!怖いよぉ!」

黒い犬は、りんごが怖気付いたのを見て、こっちへ駆けてきます。

「きゃあ〜!助けて〜!」

そのとき、ロボはりんごの前に立ち、犬を睨みました。

低い唸り声があたりに響きます。

黒い犬は、ロボを見て立ち止まり、顔を伏せました。
りんごが、目を塞いでいた手を開くと・・・

黒い犬が逃げていくところでした。

「ロボちゃん、りんごを守ってくれたの?」

ロボは、犬が見えなくなるまでじっと睨み続けていました。

<シーン3/成長するロボ>

◾️SE/大自然の音(野鳥の声)

久々野の豊かな自然の中、すくすくと育っていくロボ。

りんごが6歳になったとき、

ロボは子犬とは呼べないほど大きくなりました。

毛並みもさらに濃い茶色へ。

いつでもりんごの横にいて、周りを警戒しているように見えます。

それがわかったのはりんごの誕生日。

お祝いのパーティで

従兄弟がりんごにいじわるをしてきました。

ママからもらったプレゼントをひったくって、

♂「返してほしいか?」

「やだ!返して。それ、私のプレゼント!」(※泣きながら)

♂「ふん。とれるものならとってみろ!へへへ」

男の子がプレゼントを奪って走り出したとき・・・

一瞬で目の前にロボが回り込みました。

男の子を睨みながら、鋭い牙を剝き出しています。

そのまま男の子の周りをゆっくりと一周。

低い唸り声が響きました。

♂「な、なんだ。こいつ。気持ち悪い!」

男の子は恐怖でひきつり、逃げ出しました。

奪ったプレゼントを放り出して。

「ロボちゃん、ありがとう」

りんごは泣きじゃくって、ロボを抱きしめました。

◾️SE/大自然の音(野鳥の声)

一年後。

りんご7歳の誕生日。

この時期、久々野のりんご農家は

葉摘みに袋はぎと、もっとも忙しい時期。

おとうさんもおかあさんも毎日休まず農作業をしています。

「ごめんね、りんご。

今からお夕飯作るからね」

「いらない」

りんごはお腹がすいていたけど、ちょっとイライラしていました。

「なんだ、その言い方は!

おかあさんに謝りなさい!」

「やだ。知らない」

そのままお部屋を出ていこうとします。

「ちょっと待て!」

おとうさんがりんごの肩に手をかけたとき。


「ウォォォォォオオオオオオオン!!」

(No.383150/No.397049/No.542422/No.544002)

ロボの叫び声が、響き渡りました。

おとうさんをじっと見据え、全身の毛を逆立てて

今にも飛びかかりそうです。

おとうさんは慌ててりんごから手を離しました。

「ロボ!なにするんだ!」

と言いながら、今度はロボに手を振り上げました。

ロボはおとうさんとりんごの間に割り込み、

りんごを守るようにおとうさんを睨みます。

「ロボちゃん、やめて」

りんごは泣きながらロボを抱き寄せます。

おとうさんもおかあさんもまるで怪物を見るような目で

ロボを見つめました。

どうしようもない不安に襲われるりんご。

ロボはもう立派な成犬になっていました。

<シーン4/害獣駆除>

◾️SE/大自然の音(野鳥の声)

りんごが8歳になった年。

周りの果樹園に異変が起こり始めました。

収穫を控えたりんごの木が、無残に荒らされ始めたのです。

幹から折られて地面に散らばる枝。
食べ散らかされた収穫前のりんご。

現場に残された足跡(あしあと)から、犯人はイノシシやシカだとわかりました。

この年、日照りが続いて、山奥の木の実や草が枯れ、

野生動物たちが餌を求めて人里へと下りてきたのです。

りんごの周りの地区では、ほとんどの果樹園が大きな被害を受けました。

ところが、りんごの家の畑だけは無傷。

野生動物が足を踏み入れた痕跡さえありません。

事件のあと、おとうさんとおかあさんは

ロボを夜外に出して、畑の番犬にしようと考えました。

「そんなのいやだ!」

「だって仕方がないのよ。

聞いたでしょ。イノシシとかシカとか。

周りの果樹園はみんな荒らされてるの。

うちもなんとか守らないと」

「ロボちゃんがイノシシにやられちゃう!」

「大丈夫だ。以前みた、あの凶暴なロボなら」

「凶暴じゃないもん」

りんごは猛反対しましたが、

おとうさんおかあさんには逆らえませんでした。

翌日。

お隣の果樹園では大変な騒ぎがおこっていました。

罠にかかったシカと、イノシシが3匹。

喉を噛みちぎられて倒れていたのです。

それを聞いたおとうさんとおかあさんは

りんごに内緒で話をしました。

「まさか、お隣の・・・」

「ああ。ロボかもしれん。いや、間違いない。ロボだ」

「どうしたらいいの?」

「このままだとりんごにまで危険が及ぶかもしれん。

最悪の場合は保健所に・・」

「そんな・・・それじゃ処分されちゃうじゃない」

「仕方がないだろう。りんごのためだ」

「私・・・動物愛護センターに聞いてみる」

「あんな大きくて凶暴な犬に引き取り手がみつかると思うか?」

「でも・・・」

その話、りんごは耳をすませて聞いていました。

それですぐに決心します。

おとうさんおかあさんに見つからないように

そっと庭へ出てロボのところへ。

「ロボちゃん、ここにいちゃいけない。

早く・・・ここから一緒に逃げよ!」

りんごはロボを連れて家を出ました。

どこへ行ったらいいかわからないけど、

とりあえず人の少ない山の方へ。

「ロボちゃん、もうりんごから離れないでね」

その頃、果樹園では事件の犯人が特定されました。

冬眠前のツキノワグマ。

獲物の仕留め方などから断定されました。

すぐに猟友会が呼ばれます。

りんごとロボがいなくなってうろたえているのは、おとうさんとおかあさん。

警察にも届けて、近所を探しまわります。

<シーン5/悲劇>

◾️SE/虫の声(夜の音)

午前中に山へ入ったりんごとロボは道に迷っていました。

知らないうちに時間は過ぎ、あたりはだんだん暗くなっていきます。

夕陽が山の向こうに沈みかけたとき。

すぐ目の前の木が大きく揺れました。

目の前にぬうっと現れたのは、自分よりも大きな黒い物体。

お腹をすかせたツキノワグマです。

ロボはすぐ、りんごの前にまわりこみ、クマを威嚇。

牙を剥き、唸り声をあげました。

ビクともせずに襲ってくるクマ。

ロボは同時にクマに飛びかかりました。

ロボの噛む力は、犬の倍。

とはいえクマに致命傷を負わせることはできません。

いまは、クマをりんごから引き離そうと必死です。

クマは苛立ち、鋭い爪を振り回してロボを攻撃してきました。

ロボの体にはいくつもの傷がつき、血が滴ります。

それでも、ロボは怯みません。

ロボもりんごも気がつきませんでしたが、

そのとき、猟銃のスコープがクマを狙っていました。

銃を構えるのは猟友会の猟師さんたち。

ロボは最後の力を振り絞り、クマの足元に噛みつきました。

クマはバランスを崩し、その隙にロボは再びりんごの前に立ちます。

「ロボ!」

りんごは、ロボに駆け寄ろうとしました。

その瞬間。

◾️SE/銃声3発「パーン!」

猟師が銃を撃つより早く、

ロボは、りんごをかばうように、りんごの前に飛び出しました。

乾いた銃声が山に響き、そして静寂が訪れました。

ロボの体は、りんごを庇うように、りんごの目の前に倒れました。

◾️SE/銃声2発「パン!」「パン!」

その後(あと)の2発はクマに命中。

クマもロボの横に倒れ動かなくなりました。

「ロボ!ロボ!」

りんごは、倒れたロボを抱きしめ、泣き叫びました。

ロボは、りんごの顔を、かすれた舌でそっと舐めます。

その目は、最後までりんごをじっと見つめていました。

「いままでありがとう・・・りんご」

りんごにはロボの声が伝わりました。

それは2人にしかわからない絆だったのです。

◾️SE/HitsFMニュース(宮ノ下さん)

「本日午後、久々野町国道41号線脇の草むらで、清掃局員が動物の腐乱した死骸を発見しました。

県立大学によるDNA鑑定の結果、死骸は絶滅種とされていたニホンオオカミである可能性が極めて高いことが判明しました。

通常の犬やオオカミよりも小型で、短い耳と丸い尾を持つなど、ニホンオオカミの特徴と一致しています。

どうして久々野町にニホンオオカミが生息していたのか、詳しいことはまだわかっていません。

関係者の間では、少数の個体がこの隔絶された場所で、遺伝的なボトルネックを抱えながら、奇跡的に生き延びたのでは、という認識が広まっています。

しかし、ほかにも個体が存在する可能性も指摘されています」

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