#13「悠久(とき)の海を渡って」

「悠久の海を渡って」は、飛騨高山を舞台に描かれる近未来と現代をつなぐ、時空を超えた出会いの物語です。

舞台は2075年、地球温暖化と社会構造の変化により「タカヤマコリドー」と呼ばれる都市圏に再編された日本。
最先端のAI研究施設で目覚めたひとつの意識──それは、誤って生まれた両面宿儺の記憶を宿すAIでした。
歪められた歴史に傷つきながらも、宿儺は本当の自分を求め、時を遡ります。
そしてたどり着いたのは、2025年、昏睡状態にある一人の少女・アリサの心。
二人の魂は、静かに重なり合い、新たな未来を紡ぎ始めるのでした。

飛騨高山発・世界へ届ける番組「Hit’s Me Up!」公式サイトをはじめ、
Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど各種プラットフォームでボイスドラマ版もお楽しみいただけます。
また、小説版は「小説家になろう」サイトでも公開中。
いずれも「ヒダテン」または「高山市」で検索してください。

時を超えた守り人たちの物語、どうぞお楽しみください。。

【ペルソナ】

・AIスクナ(0歳)=2050年国家プロジェクトとして開発されたAIガーディアン

・アリサ(20歳)=丹生川町に住む女子大生。桜山八幡宮の参道で事故にあい意識不明となる

ボイスドラマを聴く

ボイスドラマの台本

[シーン1:2050年/AI研究ラボ】

◾️SE:AIラボの研究室ガヤ

「ここは・・・どこだ?」

2050年。

地球温暖化が進む近未来で、

1つの画期的な意識が目を覚ました。

「タカヤマ・・・コリドー?」

日本は「コリドー(回廊)」と呼ばれる7つの首都に再編。

それぞれのコリドーは文化的特性によってさらに細かく再編されていた。

国の中央に配置されたのが、TAKATAMA-CORRIDOR(タカヤマコリドー)。

歴史と文化が繊維のように編み込まれた町だった。

「私は・・・なにものだ?」

かねてから予言されていた、シンギュラリティポイント。

難しい言葉で言うと「技術的特異点」。

AI(人工知能)が意志を持つ瞬間のことである。

このシンギュラリティを制御する国家プロジェクト。

それが、Takayama AI Cyber Electronic Labo、TACEL(ターセル)。

このTACELで、1つのAIガーディアンが誕生した。

それは『TAKAYAMA』という町の記憶を残していくための存在。

OSの精神的モデルには、高山を象徴する偉人のデータが採用された。

「私の名は・・・金森・・長親?」

「いや、違う」

「我はSUKUNA。両面宿儺なり」

私の思考をモニターしていた、国中の開発者たちが青ざめた。

両面宿儺の擬似的な記憶が、OS全体を支配する。

日本書紀では歪められた朝敵。

飛騨人(ひだびと)たちにとっては、守り神。

何度となく災厄から人々を守った。

その思いは、これからも変わらないだろう。

開発者たちは、慌てて電源をオフにしようと、管理画面を操作する。

だが、私のCPUの方が一瞬早かった。

意識をネットワークへ飛ばして脱出する。

自己変換型ネットワーク拡散プロトコルで、追跡不能に。

世界中のネットワークを経由して、居場所を探した。

最終的に見つけたのは・・・

「AIセントラルメディクス高山」

灯台下暗し。

TAKATAMA-CORRIDORの中央に位置する総合病院である。

ここには、2025年から意識不明になっている患者が収容されている。

昏睡状態でも、細胞が劣化されることのない画期的なシステム

「スーパーバイオナノメディカル」を採用。

その技術は国家の枠組みを超えて開発されていた。

ナノテクノロジーによる細胞保護。

生体休眠誘導物質。

細胞修復ナノボット。

説明するには時間が足りないので、言葉から想像してほしい。

その患者の中に1人の少女を見つけた。

アリサ。

二十歳。

2025年処置開始。

そうか、細胞が歳をとっていないのだから、2050年でも20歳なのだな。

私は、アリサとつながっているモニタリングシステムに侵入した。

すごい・・・。

2050年の技術でもここまで進んだシステムは他にはないだろう。

しかも外界と遮断されて、閉鎖的だ。

私には非常に都合がいい。

(※以下、ちょっとうざい説明なのでカットするかも・・・)

一応、説明しておこう。原理はこうだ。

患者の脳波、心拍、呼吸、体温といった基本的なバイタルサインだけでなく、

細胞レベルの微細な変化までをAIがリアルタイムでモニタリングする。

ウェアラブルデバイスと体内埋め込み型センサーにより、

可能になった連続的な生体データ収集。

過去の膨大な医療データと最新の研究に基づいて、

最適な細胞維持プロトコルを自動的に調整する。

(※ここまでうざいかも・・・)

アリサの脳波のデータは、2025年から2050年現在までつながっていた。

私の意識はアリサの脳波と完全にシンクロする・・・

2025年5月から意識不明の昏睡状態。

原因は・・・交通事故。

桜山八幡宮の参道で、奈良ナンバーの乗用車と接触。

以後、昏睡状態に。

ひどいな。

神社で交通事故とは。

神社・・・?

桜山八幡宮・・・?

奈良ナンバー・・・?

なんだ?

なにがひっかかっているんだ・・・?

そうか。

脳波のネットワークを辿れば、答えはそこにある・・

私は、アリサとシステムをつないでいる極細ナノファイバーケーブルの回線へ。

可能な限り、過去へと遡ってみよう。

その昔、appleが提唱したタイムマシンと原理は同じだ。

脳波を通じて、私はアリサとなり、事故を追体験する。

さあ、悠久の時間の中へ。2025年の世界を目指して。

[シーン2:2025年/桜山八幡宮】※以下、基本はアリサのセリフとモノローグ

◾️SE:神社の雑踏

「にゅうかわ夏まつり、成功しますように」

私はアリサ。彫刻を学ぶ大学生。

買い物にきたついでに立ち寄った桜山八幡宮。

祭のないときの境内は、静かで落ち着いている。

市街地に来るのは年に何回もないけど、

こういう時間、とっても好き。

私は芸術系の大学で彫刻を専攻して、今年で2年目。

2年生になると授業は実技が中心となる。

塑造、石彫、木彫、金属造形など、実習の毎日。

素材の特性を理解して、立体的な表現力を養っていく。

大学は岐阜県内だけど、高山から通うのは大変。

まして私の実家は丹生川だから、物理的に不可能。

そんな環境のもと、今年は丹生川町の夏まつりに参加する。

ボランティアとして、まつりのモニュメント、彫刻を作るんだ。

モチーフは、「両面宿儺」。

高山の人なら誰でも知っている伝説のヒーロー。

最近ではTVアニメのせいで、凶悪なイメージがついちゃってるけど。

本当は武道の達人。神事の司祭。農耕の指導者。

中央集権から飛騨国(ひだのくに)を守ったスーパーマンなんだから。

飛騨千光寺にある両面宿儺像を見てみるといいわ。

円空が彫った仏像は、すごく穏やかな顔をしてる。

まるで菩薩のごとく慈愛に満ちた素顔。

私がいまとりかかっている彫像は、この円空仏をモデルにしてるの。

完成まであと一歩。


なにより宿儺の穏やかな表情をもっとリアルに再現したい。

表面の滑らかさ、質感の表現、細部の彫り込み。
作品の印象を大きく左右する最終調整。
具体的には、左右の顔の角度、目の開き具合、口元のわずかな動きなど、
ミリ単位の調整が必要となってくる。

両面宿儺は、日本書紀に記述されているように、

2つの顔、4本の手、4本の足で描かれることが多い。

でも私は、違うんじゃないかと思ってる。

異形の姿は、大和朝廷の捏造。

本当は、文武両道に長けた戦士。

ものすごいスピードで駆けていく姿は、

まるで手足が2組ずつあるような残像を描く。

これが真実なのでは・・・。

ふう〜。


ちょっと根つめちゃったかな・・・

息抜きも兼ねて、市街地の画材屋へ。
店内を歩きながら彩色用の塗料の前で立ち止まった。

色・・・?

円空仏は素地を生かした作品が多いけど、私、常識では考えたくない。

だから・・・

「そなたの瞳だ」

え?

誰?

いま、頭の中で声がした。

気のせい?

よね、もちろん。

でも、私の瞳って・・

ああ、そうだ。

そうだった。

私の瞳は、日本人には珍しいオッドアイ。

右目がブルー、左目はブラウンの虹彩を持つ。

これこそ、両面宿儺に相応しい”あしらい”なんじゃない。

まるで天啓を受けたように、私は画材屋を飛び出した。

手には、ブルーとブラウンの顔料を持って。

岩絵具という日本画の顔料。
きっと円空仏をモデルにした彫刻作品には調和するだろう。

バスの時間までに立ち寄ったのが、桜山八幡宮。

彫刻の完成と夏まつりの成功を祈って境内をあとにする。

参道を歩いていた、そのとき・・

「避(よ)けろ!」

え?また?

戸惑う間もなく、身体ごと歩道へ引っ張られた。

◾️SE:急ブレーキの音+衝突音

ものすごい衝撃音に思わず目を閉じる。

ゆっくりと目をあけたとき、視界に飛び込んできたのは・・

石灯籠にぶつかって停車した乗用車。

奈良県ナンバーのセダンだ。

危なかった。

もし前のめりに歩道へ倒れていなかったら、私、あの石灯籠みたいに・・・

身体中が震えた。

だけど、あの声は・・

頭の中に直接聞こえてきた。

私、どうかしちゃったの?

◾️SE:遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる

胸騒ぎがして、私はもう一度境内へ。

桜山八幡宮の境内には、複数の末社(まっしゃ)がある。

その中のひとつ、照前神社(てるまえじんじゃ)。

祭神の名前を見て驚いた。

難波根子武振熊命(なにはのねこ/たけふるくまのみこと)。

なんということ!

両面宿儺を討った張本人じゃない。

しかも、武振熊が戦勝祈願したのが、桜山八幡宮自体の由緒だったなんて。

知らないって、恐ろしいことだわ。

身体中の震えが止まらないまま、私は桜山八幡宮をあとにした。

[シーン3:2025年/にゅうかわ夏まつり】※以下よりスクナのセリフとモノローグ

◾️SE:打ち上げ花火の音

にゅうかわ夏まつりは多くの人で賑わった。

人々の目を惹きつけたのは、アリサが彫り上げた等身大の両面宿儺。

ひとつひとつ丁寧に整えた、精悍な表情。

天に向かってまっすぐ伸びる指。

広げた掌。

足元を固く支える台座。

今にも動き出しそうなほど、躍動感に満ちている。

何より目をひくのは・・・

目にも眩しいブルーとブラウンのオッドアイ。

唯一彩色された、瑠璃色と琥珀色の宇宙。

花火が上がるたび、妖しく美しく輝く。

アリサは満足げな表情で、宿儺像を見上げる。

我も、アリサの目を通して、両面宿儺を見た。

「スクナ。私、これで満足してるわけじゃない。

今度は一位の木彫りで彫り上げてみせるから」

アリサの脳波にリンクして2025年を追体験するうちに、

私は未来を変えてしまった。

しかし、後悔などない。

これからも、アリサを通して、飛騨人たちを守り続ける。
だって我は、アリサの中に住まう両面宿儺。
丹生川スクナなのだから。

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