「J〜真夏の夜の夢」

1945年。
世界初の核実験「トリニティ」の成功直後、一人の科学者が時空を越えて飛騨・久々野村へ迷い込みます。
そこで出会ったのは、耳が聞こえない少女・とめ。
言葉も文化も違う二人ですが、小さな優しさの積み重ねが、やがて科学者の心を揺さぶっていきます。
戦争とは何か。
科学とは何か。
そして、人を救うものとは何か。
歴史上の出来事を題材にしながらも、「一人の命の重さ」を静かに描いた物語です

【ペルソナ】※舞台は1945年5月から1960年8月へ
・J(41歳/CV:日比野正裕)=ジュリアス・ロバート・オッペンハイマー。マンハッタン計画の長。トリニティ実験の爆発による風圧で次元をスリップ。久々野村へ
・とめ(3歳/CV:坂田月菜)=高山市久々野で生まれ、久々野で育った少女。母親はとめを産んですぐに亡くなり、父親は1年前に出征して戦死。炭小屋にひとりで暮らす。畑の中に倒れているJを見つけて自分の住む炭小屋へ連れていき匿う。トメ、とはこれ以上女子が生まれないようにという意味でつけられた名前
・村人(39歳/CV:山﨑るい)=結というつながりの中でとめを見守る村人

【資料/映画「オッペンハイマー」と核兵器について(東京弁護士会)】
https://www.toben.or.jp/know/iinkai/kenpou/column/3020242.html

【プロローグ:トリニティ実験】

◾️SE:激しい雷雨の音

『我は死神なり、世界の破壊者なり』

◾️SE:小鳥のさえずり(平和なイメージ)
◾️激しく咳き込みながらもたばこを吸うJ

「(ゴホゴホ)
タ、タバコをくれ!」
<Shu「Didn’t you just have one?」(今吸い終えたばかりだろ)>

「いま吸い終えたばかり?
そんなこと、君には関係ないだろう」
<Shu「I’m worried about you. 」(心配してるんだ)>

「なあ、シュウ。
我々がこれからしようとしているのは、本当に正しいことなんだろうか?」
<Shu「Japan is allied with Hitler, you know.」(日本はナチスの同盟国だぞ)>

「ああ。
確かにニッポンはナチスドイツの同盟国」
<Shu「We are going to end the war, aren’t we?」(戦争を終わらるんだろ)>

「だが、いくら残虐行為を繰り返しているとはいえ、
我々の開発したこの兵器は・・・」

◾️SE:カウントダウンの声「Thirty seconds and counting.」

私の言葉を遮るように、”ガジェット”のカウントダウンが始まった。

”ガジェット”、というのは、爆縮型のプルトニウム原子爆弾。
まもなくニッポンへ投下される大量破壊兵器と同じ形の爆弾である。

私の名前は、ジュリアス。
友人で同僚のシュウイチからは『J』と呼ばれている。
理論物理学者で、『トリニティ計画』の最高責任者。

プロジェクトは、アインシュタインが大統領に送った手紙から始まった。

ナチスより先に核の開発を。
アジアで傍若無人な行為を繰り返すニッポンも止めなければ。

開発に関わる者の中に、その信念を疑うものなどいなかった。

だが、戦争が長期化すると、ナチスの勢力が弱まってくる。
そして・・・

◾️SE:カウントダウン「Ten、Nine、Eight・・・」

1945年5月。ナチスドイツが降伏。
ニッポンは空襲ですでに壊滅状態。

それでも私は、軍事的使用以外の選択肢はない、と主張した。

◾️SE:カウントダウン「Three、Two、One、Now!」〜爆発音・衝撃波

ガジェットが炸裂した瞬間。

我々は『数千もの太陽が同時に昇るような光』に包まれた。
サングラスをしていても、
とても目を開けていられない。
空気が焼けるように・・・熱い!

30秒後に襲ってきたのは、すべてをなぎ倒す超音速の衝撃波。
まるで空間そのものを歪めてしまうような・・・

いや、違う。
実際に空間は歪んでいたのだ。

遠のいていく意識。

私の目の前は真っ白になっていった・・・

【シーン1:大野郡久々野村】

◾️SE:ヒグラシの声と小鳥のさえずり(平和なイメージ)

う・・う〜ん・・・

ハッ!
ここは・・・どこだ?

砂漠ではない・・・
いったい・・どこまで吹き飛ばされたんだ。

森・・・・・?

トリニティサイトの近くにこんな森があったか?
ロスアラモスの麓(ふもと)か?

私が横たわっているこの巨木は・・・なんだ?

エドゥリス松でもジュニパーでもない。

赤みを帯びて、幾重にも剥がれ落ちるような皮・・
触れれば驚くほど柔らかく・・そして温かい。

顔を上げれば・・・なんだ、この真っ赤な果実は?
小さなカップのような形。
緑の葉の中で、血のように滴る赤色。
なんと不吉な・・・

やはり・・・・・なにかおかしい。

あの、世界を焼き尽くすような熱線はどこへ行った?
肌を焦がす熱さは?
いや、それだけじゃない。

トリニティサイトの音が、なにもしない。

カウントダウンを告げたスピーカーの雑音も、
科学者たちの歓声も、大地を揺るがす地鳴りさえ・・・

一体どこへ行ってしまったんだ?

まるで何事もなかったかのように、
すべてが嘘のように消え去っている。

残されたのは、ただ、湿った土の匂いと、冷ややかな風。

 ここはどこだ?
私はもう、この世にいないのか・・・?

最悪の状態を想像して天を仰いだとき・・・
私の口に何かがふれた。

え?

とっさに身構える。
すると・・・

私の口に触れたのは・・・
大きな葉っぱ・・・?
水がたまっている・・・
葉っぱの向こうには、茎を持った小さな・・・少女?

3歳くらい・・・?
薄汚れた森の精のような・・・
泥と炭で汚れた、表情のない顔。

少女が自分の手のひらより大きな葉っぱを近づけてくる。
顔よりも大きな葉になみなみとたまった水。

呆然と見つめる私に、少女はもう一度水を差し出す。

小さな顎を突き出して、飲め・・と言っているのか。

「これを・・?」

まるで私の声が聞こえていないかのように、また顎を突き出した。

私は無意識に息を大きく吸い込む。
穢れのない、無垢な空気。

と同時に気づく。
喉が、焼けるように渇いている。

私は少女の手から奪うように水をとり、喉に流し込んだ。
冷気が身体中に染み渡る。
生き返るような心地だった。

無我夢中で水を飲み干したあと、私は少女に向かって話しかける。

「ありがとう。
ここは・・・どこなんだい?」

少女は不思議そうに小首を傾げる。
私の動く「唇」をじっと見つめながら。

英語が・・通じないのか。

と、そのとき・・・

『とめ!』

木の裏側、反対方向から”声”がした。
私が後ろを振り返ると、それを見た少女は体を傾けて、視線をそちらへ。
そのまま木の裏側へ走っていった。
頭の後ろで、聞きなれない”声”が響く。
気づかれないように、そっと覗き込むと・・・

(※耳が聞こえないとめの目の前で目を見ながら話しかけるので大きい声になる)
『ああ、そこにおったんか。
あかんやないか。小屋からあんまり遠くへ行ったら』

『ほれ、配給のいも。おまえの分や。
うちらの組であずかっとったで。持ってけ』

『ええか。
お前は一人やし、まだちんまいけど、それでもここ久々野の村人や。
今はな、みんなで助け合わんと。
それにな、大きい声じゃ言えんけど・・・
子どもがこんなとこでフラフラしとると、
しょっぴかれるぞ。憲兵に』

『と言っても、わからんか。そらそうや。
しかたないわなあ。はっはっは』

あれは・・・なんと言っているんだ?
ここはアメリカじゃないのか・・・?

それにあの格好・・・
砂漠の先住民のような粗末な衣服。
よく見ればあの少女も、ボロ布一枚まとってるだけではないか。

やがて、少女は手になにかを抱えて戻ってきた。
それを私に差し出し・・・

また顎を突き出した。

これは、ヤムイモか・・

私は立ち上がって片手で受け取る。
少女は私の手をとって歩き出した。
森の奥から聞いたこともない、どこか物悲しい生き物の声が響きわたっていた。

◾️SE:ヒグラシの声

【シーン2:炭焼き小屋】

◾️SE:夜の虫の声

少女が私を連れていったのは、森の奥深く。

そこには今にもつぶれそうな、粗末な小屋。
かつては炭焼き小屋だったのだろう。
土間のあちこちには、黒い粉がマダラ模様となってしみこんでいた。

少女は小さな手をつかって竃に火を起こす。
先ほど村人から分けてもらったイモを釜で炊きはじめる。

本当にここにひとりで住んでいるのか。
信じられない。こんなに小さい子が・・・

私は小屋の真ん中に束ねてあった藁にもたれて腰を下ろす。
ここに飛ばされてから、体のだるさがおさまらない。
少女は私の元にやってきて、土間にしゃがみこんだ。

ん?
なにか言いたいのか?

黙って木の枝をとり、土間になにか描き始めた。
なんだろう。
右から左へ、2つの・・・文字?

名前?
そうか・・・この子の名前。

さっき、村人はたしか・・・ト、メ・・と呼んでいた。
だが、そこに書かれてあったのは、
くずれてはいるが・・・アルファベットの「K」?と「S」?
K.S・・・
クサカ、シュウイチ、私の同僚、シュウのイニシャルと同じ?

「あ・・・う・・・」

「それは、君の名前かい?」

「お・・・・」

「私の名前は・・・こうだ」

「あ・・・う・・・」

”K”、”S”と書かれた文字の横に私は”J”と書いた。

「お・・・・」

「ジェ・・イ、って言うんだよ。ジェ、イ」

「え・・・い・・」

とそのとき・・・

◾️SE:大きな雷の音

「うわっ!
かっ、雷か!?」
だめだ・・・あれ以来、大きな破裂音が苦手になってしまったようだ。

「なあ、トメ。この小屋、雨漏りは大丈夫なのか?」

「え・・・う・・・」

少女は何事もなかったように、なにか言おうとする。

「ううう・・・」

え・・・?
まさか・・・まさか・・・耳が聞こえないのか?

「あー」

驚いて顔を近づけると、少女は初めて微かに笑った。

「ああ・・」

そんな!
こんな小さな子が・・・
耳が聞こえず、こんなところにひとりで・・・

いったい、ここはどこなんだ!?

私の表情が強張るのを見て、
少女、いやトメは藁の下からなにかを取り出した。
ボロボロになった紙?
それを私に手渡す。

これは・・・
B29の爆撃予告ビラ!?
しかもこの文字は前に見たことがある・・・

シュウ・・・そうだ、友人の日系カナダ人、シュウが
数式の横にふざけて描いていた文字・・・

ニッ・・・ポン?
・・・う、うそだ・・・・
ここはニッポンなのか!?

じゃあ、この子は・・・・・

◾️SE:大きな雷と雨の音

降り出した雨が、ボロボロの屋根から容赦なく入ってくる。
私はトメを抱きよせ、雨が振り込まない小屋の角へ。

「ああー、あー」

その間もトメは、なにかを訴えようとしている。
私の頭の中は混乱し、どうにかなってしまいそうだった。
トメの頭を撫でながら、考えを整理しようとして
目を閉じた、まさにそのとき・・・

◾️SE:荒々しく扉が開く音〜大きくなる雷雨の音

扉が開いた瞬間、トメは入口へ向かっていく。

「あ・・あ・・ああ」

扉の外に立っていたのは、軍服を来た2人の男。
男たちはトメを睨みつけたあと、
手に持っているビラに気づいた。
それをひったくると、

『おいきさま!これを誰からもらった!?』

男たちは、トメを雨の中へ引っ張り出す。
ナチスのような威圧感。
私は藁の影に隠れて見守っていたが・・・

「う・・あ・・」

『返事をせんか!』

答えられないトメに、男たちの苛立ちは頂点に達する。
力まかせにトメの頬を平手打ちした。
泥の中へふっとぶトメ。
男たちはそのまま腕を持って引きずっていく。

「ああ・・あ・」

私はそれを見たとき、我慢ができなくなって、思わず飛び出した。

「やめろ!その子に手を出すな!」
<「”No!Get your hands off !」>

私を見た男たちは目を丸くする。
そのあと、顔を見合わせ、ニヤリと笑って軍刀を抜いた。

私が一歩後退りした瞬間・・・

◾️SE:落雷の音

今まで聴いたこともないような、雷が落ちる大きな音。
あのときと同じような真っ白な光が私を包んでいった。

「うぇ・・い・・・・・」

【シーン3:トリニティ再び】

◾️SE:拍手と歓声の音

う・・・ううう・・・

な、なんだ!?

そこは見慣れたニューメキシコの研究所だった。
一緒に開発を続けてきた仲間たちが、手を叩いて歓声を上げている。

ああ、そうか・・・
戻ってきたんだ。

ああ。
みんな、トリニティ実験の成功を祝っているんだな・・・・

体を起こす私を見た同僚がかけよってくる。
シュウがシャンパングラスを持って近づいてきた。

だが、それを見た瞬間、私は・・・

「だめだ!やめろ!計画は中止だ!あの子を殺すな!」
<「”No!!Stop!!Abort the plan! Don’t kill her!!」>

狂人のようになって叫び続ける私を、
シュウも周りの仲間たちも呆然と見つめていた。

【シーン4:初来日】

◾️SE:高山駅の雑踏/蒸気機関車の汽笛の音

1960年。
国鉄高山駅。

日本が無条件降伏してから15年。
本当のことを言うと、すぐにでもここへ来たかった。

だが、赤狩りだのなんだのと、逆風が吹き荒れ、
私は公職を追放。
結局15年の月日が流れてしまった。

はやる心を抑えきれず、
ダグラス DC-3で羽田から名古屋へ。
名古屋から直通運転が始まったばかりの高山本線に乗った。

午後の高山駅は、制服を着た女学生たちで賑わっている。
そうか。
高山は爆撃を免れたのだな。よかった。
改札まできたところで、誰かが私のスーツをつかんだ。

「うぇ・・い」

振り返ったとき、私の前に立っていたのは、一人の女学生。
澄んだ瞳。
目を丸くして私を見つける美しい少女。

え・・・

少女はカバンからノートとペンを取り出すと、
ものすごい勢いで文字を書き始めた。

『Jさんですか?
トメです』

「トメ・・・・・トメなのか!?
よかった!無事だったんだね」

『あのあと、久々野村の結の人たちが、
体を張って憲兵から守ってくれたんです。
終戦後はそのまま、私を養子に迎えてくれました』

「そうだったのか・・・よかった」

『久々野はりんごの特産品が人気になり、
私は高等学校まで行かせてもらいました。
いまは英語を必死で勉強中。
いつかアメリカに行ってJさんにお礼を伝えたくて。
意味がわからない英語になってたら、ごめんなさい』

たどたどしい英語の文字を見て、私は言葉にならなかった。

『今日は修学旅行なんです。
これから名古屋へ出て、広島へ行きます』

「ヒロシマ・・・」

『広島は日本の産業技術の中心。
”広島県産業奨励館”で勉強してきます!
飛騨高山や久々野を、最先端の産業でもっと豊かにしたいんです!』

そう言って、彼女はペンを置いた。

教師に促され、トメはちょこんと頭を下げて、ホームへ走っていく。
私はホームへと引き返した。
動き出した列車の窓から、トメが手を振る。
私はこれ以上ないほどの安堵感を得て、夢中で手を振り返した。

『世界はもう元には戻らない。
だが、この世界の未来は、守るに値する』

◾️SE:走り去るディーゼル機関車の音

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