飛騨・上宝に眠る戦国時代の財宝――
その謎を追うのは、父の遺志を継いだトレジャーハンター「スワロウテイル」こと朱羽。
神岡鉱山、ギフチョウ、帰雲城。
歴史と伝説が交差するとき、ひとつの真実が浮かび上がる。
考古学者・静流との対立の先に待つものとは――
ヒダテン!がお届けする、本格歴史冒険ボイスドラマ。
続編「静流の巻」へとつながる、壮大な序章・・・
【ペルソナ】
・朱羽(CV=小椋美織)=あげは(27歳)=神岡鉱山で働いていた父の遺志を継いだ正体不明のトレジャーハンター。
通称は「スワロウテイル」。右肩にギフチョウのような痣がある
・静流(CV=日比野正裕)=シズル(29歳)=上宝出身の考古学者。地元の伝説伝承を調べ保護活動を続けている。朱羽にはいつも先を越されるため異常に警戒し嫌悪している
・鉄兵(CV=日比野正裕)=てっぺい(故人享年38歳)=朱羽の父。生活のために神岡鉱山で閉山まで働く。一生をかけて江馬氏の財宝を探していた
【プロローグ:神岡鉱山2001年】
◾️SE:鉱山のガヤ〜遠くでドリルが岩を削る音、鉱石を運ぶトロッコのガタゴトという音
『朱羽、ようく聞くんだ』
2001年の春。
パパが、私の目を見て語りかける。
巨大な神岡の鉱山。
5歳の私にとって坑道は、地下深く広がる迷宮のように見えた。
パパの作業服は、鉱泥(こうでい)で赤黒く汚れている。
『神岡鉱山はあと2か月で閉山になる』
「うん」
『でもな、パパはついに見つけたんだ』
「え?なに?」
『宝の場所だよ』
「ホント?」
『ああ、本当さ。
パパ、いつも言ってるだろ。
”上宝は宝の郷(さと)だ”、って』
「上宝っておうちのとこ?」
『ああ、そうだよ。
神岡と上宝はね、つながってるんだ』
「ふうん」
『宝の場所を書いた地図は朱羽に預けるから』
「どうして?」
『朱羽がいないと地図は完成しないんだよ』
「わかんない」
『それに・・・もしもパパがいなくなっても大丈夫なように』
「パパいなくなっちゃうの?
そんなのイヤ!
朱羽、ひとりになるのは絶対にやだ!」
『心配しなくてもいい。パパはいなくならないから』
「約束だよ」
『ああ、約束だ。
朱羽もパパと約束してくれ。
今からこの地図の説明をするから、ようく聞くんだ』
パパは、9つに折った地図を開く。
大きな地図。
両手を広げたよりもおっきい。
『地図がなくてもわかるように頭の中に入れなさい。
閉山するまで。あと2か月の間に』
「うん。わかった」
『ようし、いい子だ。
こっちへおいで』
これが、パパと交わした最後の言葉だった。
その日の夜。
全層(ぜんそう)雪崩。
いわゆる『春の雪崩』が
池ノ山(いけのやま)の飯場(はんば)を直撃。
夜食を食べていたパパは、なす術(すべ)もなかった。
「パパのうそつき」
ひとりぼっちになった私は
どれほどパパを憎んだか・・・
だけど、パパとの約束を忘れることはなかった。
【シーン1:パパの遺志】
◾️SE:キャンパスの大教室
「先生、その見解には地質学的な視点が欠けていませんか?
神岡の池ノ山(いけのやま)周辺は、当時から地表に鉱石が現れていたはずです。
江馬氏が密かにその一部を掌握していたとしたら?
公的な記録に残さず、
『隠し銀』として運用していた可能性は否定できないはずです!」
「それはあくまで仮説だ。
物証がない以上、考古学としては認められないよ」
「物証がないのは、探し方が間違っているからです」
「君のシミュレーションは面白いが、『単なる願望』に過ぎない。
考古学とは、出土した遺物から歴史を組み立てる学問なんだ。
宝探しじゃないんだよ」
15年後。
私は東京の大学で考古学の教授とやり合っている。
互いに顔もわからない大教室の一番前と後ろ。
岐阜県から招かれた客員教授・静流。
フィールドは私の故郷、上宝だという。
あ〜。私、ダメなタイプだ、これ。
「今日の授業はここまで。
また、議論を戦わせよう」
ふん。
やなこった。
そんなことしている時間なんてない。
15年前。
パパがいなくなったあと、
私をひきとったのは、市街地に住む画商。
高齢の夫婦だった。
養父はかつて神岡鉱山で働いていたという。
子どものいなかった老夫婦は
私を小学校から中学、高校までいかせてくれた。
卒業後はアルバイトで学費を稼ぎながら、東京の大学へ。
学ぶのは、考古学。日本中世史。地質学・地理学。
最新の科学的発掘方法から、古文書の読み解き。
地形図の読解まで、必要な知識を貪欲に学んだ。
講義のない日は、登山のサークルでフィールドワークを鍛える。
バイクの免許も取った。
そして、文化財保護法。
「調査名目」で正当に掘るための手続きや、発見した際の権利関係を学ぶ。
大学生活の途中で、養父母は揃って天に召された。
身寄りのない2人だったから、見送りは私ひとり。
二度目の喪主には涙もなかった。
またひとりぼっちになったけど、
今度は、お店と知識が残っている。
私一人が暮らすには十分なお金も。
大学卒業と同時に、私は高山へ帰郷。
画商の看板はそのままに、
美術品を整理してバイクを購入した。
そして・・・
いつも持ち歩いているパパの地図。
大学の4年間じっくり研究した。
地図の中に隠されていたのは5つの財宝。
飛騨銀の錫杖(しゃくじょう)。
蒔絵(まきえ)の香箱(こうばこ)。
銘刀「高原長光」(たかはら ながみつ)。
ギフチョウを模した銅製の香炉(こうろ)。
そして、黄金の軍扇。
ひとつひとつ説明すると時間が足りないので、詳細は省略。
財宝を推理したのは、パパ。
あの日、私に話してくれた内容は、全部覚えている。
では、どうやって場所を解き明かすか?
ヒントは、パパが地図に書き込んでいた印。
最初インクの滲みだと思ってた。
だけど、拡大してよく見ると、それは蝶の形。
『春の女神』ギフチョウだった。
そう!
神岡鉱山はかつてギフチョウの生息地。
愛好家の間じゃ、神岡ブランドのギフチョウは特別な存在。
まさか、「ギフチョウの吸蜜(きゅうみつ)ポイント」?
推理は的中。
印はカンアオイの群生地だった。
ギフチョウの幼虫にとって唯一の餌。食草だ。
さらに上宝の断層と地質を分析。
自然な空洞と人工の坑道が、もっとも接近する地点を特定した。
あとはひたすら古文書を読み解く。
大学で学んだ中世史の知識から、江馬氏の敗走ルートを再構成。
「敵に奪われない道=人が通れない難所」をバイクと登山技術で踏破。
卒業してからここまでくるのに5年間かかった。
【シーン2:スワロウテイル】
◾️SE:バイクの走り去る音
『オーマイガー! 』
『またしても、スワロウテイルか』
『今までに何度やられたか!』
3先生、ありがと。
教授が地団駄を踏む様子が目に浮かぶ。
私は41号線をフルスロットルで駆け抜ける。
バックパックの中には『江馬氏の軍扇(ぐんせん)』。
黄金の龍をあしらった七曜紋(しちようもん)が描かれている。
私の名は朱羽。
またの名を”スワロウテイル”。
違法スレスレの悪名高いトレジャーハンターと言われている。
ふん。
なんとでも言えばいい。
私はパパが探し続けた江馬氏の財宝を手に入れたいだけ。
それが私の生きる目的だから。
かつて栄華をほしいままにした江馬氏の財宝。
探していた江馬氏の五宝(ごほう)は、軍扇でコンプリートした。
あとは、パパと私の悲願。
江馬氏の埋蔵金だけ。
だけど、腑に落ちない。
古物商だけでなく、
考古学者や郷土史家たちまで、今になって動き出したのはなぜ?
考えられる原因は3つ。
1つ目は、神岡鉱山閉山から20年以上が経過したこと。
当時の未公開資料や「旧坑道図」が一部デジタル化・公開されている。
2つ目は、上宝の山間部で集中豪雨による土砂崩れが発生したこと。
「江馬氏の家紋が入った漆器の破片」が土砂から発見された。
そして3つ目は、私が手に入れた『五宝』の情報。
それが闇のマーケットに流れたこと。
誰が情報を流した?
きっとあいつだ。
考古学者の静流。
いつも仕事の邪魔をする研究者。
静流が私をおびきだすために仕組んだに違いない。
先を越される前に急がないと。
【シーン3:奥飛騨温泉郷平湯/隠し湯】
◾️SE:温泉の環境音
「お邪魔します・・・あ・・
これは失礼」
奥飛騨温泉郷・平湯の露天風呂。
しまった・・
混浴だってこと、忘れていた。
まあ・・・いいか。
「あの・・
ご迷惑でなければ、少しお話してもいいですか?」
「ご自由に」
「ここ・・武田信玄の家臣が見つけた『隠し湯』ってご存知でしたか?」
「いえ」
「ちょっと熱いでしょ。
実は神岡にマグマ由来の鉱床があるんです」
この声・・
どこかで聞いたような・・・
「そこを通って湧出する温泉だから熱いんです」
「詳しいんですね」
「ああ。
考古学をちょっとかじってましてね」
え・・・
「そうそう。
鉱床の成分は、閃亜鉛鉱(せんあえんこう)って言いましてね。
少し鉄の匂いがするでしょ」
「そうですか・・・」
間違いない。
静流だ。
でも大丈夫。
顔を合わせたのは大学時代の1回だけ。
もう何年も前だし、大教室でお互いの顔も見えなかったんだから。
それに、ここは混浴の露天風呂。
お互いに目線を合わせないのがマナーでしょ。
「実は私、考古学の知見を生かして大学で教鞭もとってるんですよ」
ん?
なんだ?
「毎年毎年学生の顔は変わっていくんですけどね」
なにが言いたい?
「何年かに一度は、必ず記憶に残る生徒がいるんです」
「はあ」
「そういう学生たちと議論を戦わせるのが、
楽しみでもありまして・・はは」
カマかけてるんじゃ・・ないよな。
「あの・・・」
「なんですか?」
「どこかで以前・・お会いしましたでしょうか・・」
「いいえ」
「ですよね。すみません。
いろんなとこで生徒さんと会うので・・
失礼しました」
気づいてるのか?
私がこの隠れ湯に来た理由を・・
いや、そんなはずはない・・・
ここで出会ったのは偶然だ。
「また、どこかでお会いしましょう」
私は無視して、先に露天から上がった。
これも混浴のマナー。
彼は私に背を向けて湯に浸かっている。
急いで着替えて駐車場へ。
バイクにまたがり、フルフェイスを被ってふと気づく。
このバイク・・・見られたか・・・
私は離れた場所までバイクを押していく。
道路へ出てからイグニッションを回した。
【シーン4:朱羽の画廊】
◾️SE:地図を広げる音
市街地にあるギャラリー『翅』(つばさ)。
深夜、平置き台に、地図を広げる。
五宝を、発掘した地点の上に置いた。
パパが場所を教えてくれた、江馬氏の遺産。
でも、これだけじゃ「埋蔵金」には辿り着けない。
何かが足りない。
ふと、パパの言葉が頭をよぎる。
『朱羽がいないと地図は完成しないんだよ』
私は振り返って姿見の前へ。
ニットをはだけて右肩を出す。
鏡に映る、ギフチョウの痣。
その形をトレースして、机の上の地図に重ね合わせた。
痣を『胴体』に見立て、そこから五宝の隠し場所を結ぶ・・・
地図上に巨大な「翅(はね)」の脈が浮かび上がった。
右の尾状突起(びじょうとつき)が指し示す先は・・・
平湯(ひらゆ)の隠し湯!
さっきの場所・・・
やっぱりそうだったのか。
武田信玄の家臣が見つけた隠し湯?
なにか胡散臭いものを感じていた。
飛騨に攻め入れられ、信玄の傘下に入った江馬時盛(えま・ときもり)。
みすみす信玄に財宝を渡すとは思えない。
なにか見落としてるような気がして、
直感で立ち寄ったのだが・・・
あそこに『黄金の采配』が!?
静流(しずる)がいたのは偶然じゃなかったんだ。
私は胸騒ぎを覚えて、再びバイクにまたがった。
【シーン5:隠し湯再び】
◾️SE:温泉の環境音〜発掘している音
遅かった。
私が平湯に着いたときは、すでに発掘が始まっていた。
さっき私が浸かっていたところ。
あそこに『黄金の采配』が・・・
注意深く現場を見守る静流。
その隣にいるのは・・・
文化財保護監視員か。
相変わらず手堅いな。
ふん。
仕方がない。
あれは武田信玄から贈られた軍事的権威の象徴。
そんなものはくれてやる。
私の目的は、こんなちっぽけな財宝ではない。
私は踵を返してバイクへ。
飛騨一帯に翅(つばさ)を広げるギフチョウ。
五宝が胴体。
右の尾状突起は平湯の隠し湯。
そして、左の尾状突起は・・・
白川郷・帰雲城(かえりくもじょう)!!
天正13年、「天正大地震」により、
一瞬にして地中に埋まった城と城下町。
帰雲城の当主・内ヶ島氏理(うちがしま・うじまさ)と江馬氏の関係。
実は、江馬氏が滅亡するとき、
生き残った家臣たちが隣国の内ヶ島氏を頼ったという伝説がある。
そのとき、再起を期して隠した家宝や軍用金の一部が
帰雲城に運び込まれたという。
その財宝ともども地中に眠っている。
これが、スワロウテイル=ギフチョウ最後のピースだ。
パパ、待ってて!
帰雲の闇に眠る黄金。
『春の女神』は
陽の光の下で私が必ず『羽化』させてみせる!
スワロウテイル〜静流の巻へ続く
この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。


