「水原勇気になりたくて」

背番号のないエースが、仲間とともにマウンドへ――

ボイスドラマ『水原勇気になりたくて』は、
ひとりの内気な少女が抱いた夢を、8人の仲間たちが“現実”に変えていく物語・・・

【ペルソナ】
・結葵(ゆうき=16歳/CV:未定)=高山市街地の高校1年生。リトルリーグではピッチャーで4番。内気で他人からあまり良い印象はなくいつも仲間はずれ。幼い頃に見た漫画の水原勇気が憧れ
・珠望(たまみ=16歳/CV:未定)=高山市街地の高校1年生。マネージャーとして入部。リトルリーグではキャッチャー。結月の実力をみんなに知ってほしいと思っている
・さくら(教師=24歳/CV:岩波あこ)=高山市内の小学校教師
・稀武(けん=16歳/CV:日比野正裕)=城山高校野球部のキャプテンでキャッチャー

【プロローグ:小学校1年生】

◾️SE:始業チャイムの音〜教室のざわめき

『みなさ〜ん。
大人になったらなりたいコトやヒトについて教えてくださ〜い』

小学校に入学した春。
最初の授業で先生が私たち一年生に尋ねた。

『ショウタくんはメジャーリーグの野球選手?』
『モモちゃんはユーチューバー?・・じゃなくてVチューバー?』
『ユウキちゃんは・・・?』

私は、消え入りそうな小さな声で呟く。

「水原・・勇気・・」

『え?だれ・・・?ミズハラ・・ユウキ?
だあれ、それ?・・野球選手?先生ちょっとしらないなあ』

わかってもらえなくていいんだ。
誰も知らなくなっていい。
だけど私には最高のヒーロー・・ううん、ヒロインなんだもん。
水原勇気!
最高にかっこいいんだから!

[シーン1:城山高校1年生】

◾️SE:入学式のイメージ

あれから9年。
私は高校へ入学した。

「城山高校野球部へようこそ!
いやあ嬉しいなあ!
マネージャーが2人も入ってくれて!」

「ちょっとぉ!
マネージャーになんてなる気はありません。
この子、ユウキはピッチャーで4番。
アタシはキャッチャー!」

親友の珠望がバッグからキャッチャーミットを取り出して
目の前に差し出す。
私のバッグもひったくり、ソリッドタイプのグラブを見せる。

「うそ!?
なんで?
おまえらオンナだろ?」

「それがどうしたのぉ!
この時代にその言葉口にする?」

「いや、いくら新設校で全員一年生だからって、
野球部にオンナは・・」

「なに?女性をばかにしてるの?」

「珠望、もうやめようよ。
やっぱ無理だって」

「ダメよ!あきらめちゃ!
あんたの居場所はマウンドでしょ」

「でも・・・」

「別に喧嘩する気はないけどさ・・
学生野球連盟・・学野連のルールでも男子しか認められてないんだよ」

「言われなくてもわかってる」

「ソフトボールに転向すればいいじゃねえか」

「野球とソフトボールじゃ、ラグビーとアメラグくらい違うわ」

「それに高校野球は軟球とちゃうぞ。硬球だぞ」

「クラブチームで硬球投げてきてんだよ」

「なら女子高校野球だってあるだろう。
高山にはないけど、越境すれば県内にはあるはずだ。
うまくいけば、マドンナジャパンだって目指せるんじゃないか。
まだ一年生なんだから」

「そんなんアタシたちが目指してるゴールじゃない」

「なんだよ、それって」

「甲子園で優勝して、プロからドラフト一位で指名される」

「あ〜はっはっはっ!
なに言ってんだか。
学野連でさえ、男子生徒に限る、って言ってるのに、
プロ野球なんて・・」

「”医学上男子でないものを認めない”
ってこと?
そんな条項は1991年に撤廃されてんだよ。
もっと勉強しろよ」

「なんだと!」

「珠望、もうやめて・・・」

「よし。じゃあ、実力で勝負するか?」

「なに?」

「一打席勝負。
もしバットが結葵の球に当たったら入部はあきらめる」

「頭おかしいんじゃねえか。
当たったら・・・って」

「事実だからしょうがないだろ」

「大した自信だな。
じゃあ、もしもオレがヒットかホームランなら
2人ともマネージャーになってもらうからな」

「わかった」

「珠望・・・」

「心配ないよ、結葵。
いつも通り投げればいいだけ」

珠望はにっこり笑ってウィンクした。

わかってる。
珠望は私の投手としての才能を信じ切ってるんだ。
それに、私の夢も・・・

結局、私はマウンドに立つことになった。
勧誘活動が終わる夕方。
誰もいないグラウンドに
野球部の入部希望者が集まってきた。

珠望と言い合っていたのは、キャッチャーの稀武。
入学したときから新設野球部のキャプテンに決まっているらしい・・
なぜなら・・・

稀武は中学時代、軟式でも硬式でも打ちまくっていた強打者だった。
野球推薦入学だから、誰もが認める野球部主将。
高身長で、飛距離もありそうだ。

[シーン2:城山高校グラウンド】

◾️SE:夕方のイメージ

グラウンドの使用については・・

”毎日練習しないと感覚がなまる”

そう言って、稀武が顧問に直訴したらしい。

珠望がレガースをつけて、ホームベースの後ろに立った。
稀武は笑いながらマウンドの私を見ている。

野球部の入部希望者は初日でまだ6人。
内外野に散らばっていく彼らに向かって、

「内野はいらねえよ。
どうせ、フェンス越えるんだからな。
どっちか審判やってくれ」

とまた笑う。

それを見ながら、
ニヤリと笑って珠望はマスクをはめた。

◾️SE:投球をミットで受ける音

私が投球練習を始めると、少しだけ周りがざわつく。

「アンダースローのサウスポーか。
面白いけど、まあおっせえな。
ハエがとまりそうだぜ」

内外野のポジションもすっかりリラックスムード。
スマホ撮ってるメンバーもいる。

だけど、私の球を受ける珠望は自信満々だ。
キャッチャーマスク越しに上がった口角が見える。
あの表情を見ると私も落ち着く。

稀武が打席に入る。
左打者なんだ。
主審役の内野手が右手を上げた。

「プレイボール!」

打席で構える稀武。

珠望がサインを出す。
外角低めのシュート。
小さくうなづいてセットポジションに。
低いフォームから地面を擦るように腕を振って・・

第1球。

◾️SE:投球音

見送り。

「ストライーイク!」

「シュートか。なるほどね。
いいコースには決められるんだな。
だけどこの球速じゃあなあ・・・」

第2球目。
珠望のサイン通りに。

セットポジションから・・・
左打者の内角をえぐるスライダー!

◾️SE:投球音

思わずのけぞり、尻餅をつく稀武。

「ストライーイク!」

審判の右手が上がる。

「うそだろ!
当たりそうだったぜ」

と言いながら、体の泥をはらって、打席に入り直した。

「まあいい。
しょうがねえな。本気出すか」

そう言って、バッターボックスの一番後ろに立つ。
珠望は”うん””うん”と首を縦に振る。
”次で決める”という合図だ。

3球目。
全力投球。

思いっきり腕を振って・・・
内角高めのストレート。

◾️SE:投球音と風切音

空振り。

マウンドまで聞こえてくる風切音。

「え?
な、なんだいまの・・」

珠望は立ち上がって、審判に球を渡す。

「あれ、ストレートか!?」

マスクをはずした珠望に向かって、稀武が詰め寄った。

「そうよ。見てわかんない?」

「・・ホップしたぜ!
浮き上がったじゃねえか!」

「これが結葵の球よ。
簡単に打てる球じゃないでしょ」

「簡単に、どころか
こんなん、打てるやついるんかよ!」

外野にいた野手がマウンドに駆け寄ってきた。
みんな、私に向かって手をさしだす。

「よろしくな」「よろしく」

呆然としていた稀武もそれを見て、ゆっくりとマウンドへ。

「わかったよ。
おまえのすごさ。
このオレが打てねえってことは、
他に誰が打てるんだ・・・」

「ありがとう」

「認めるよ。おれの負けだ」

「じゃあ、私、約束通りマネージャーになってあげるから」

「え?そんな約束してなかったじゃん・・」

「女子の選手は2人もいらないでしょ。
それにキャッチャーはあんただし」

「おまえ、最初から・・」

「マネージャーって大事な仕事なのよ。
たった一人の女子野球部員の面倒はアタシが責任持ってみるから」

珠望・・・
確かにこれって珠望のプランだけど・・
珠望だって、ホントはキャッチャーやりたいはずなのに・・

「結葵、大変なのはこれからだからね。
私たちの目標は、もっともっと大きいんだから!」

対戦のあと、みんなでグラウンドを整備して、家路につく。
バックネットに落ちる夕陽がまぶしかった。

[シーン3:背番号のないエース】

◾️SE:夕方のイメージ

新設校城山高校の野球部は私を入れて9人となった。
もちろん全員一年生。
顧問の先生は、女子部員の入部に対して何も言わなかった。
監督も稀武から私のことを聞いたとき、”そうか”とひとこと言っただけ。

男とか女とかまったく関係ない。
そういう雰囲気を醸し出していた。

だけど現状のルールではもちろん、女子は公式戦での選手登録ができない。
背番号もない。
部員の足りない高校と連合チームを組まないと大会にも出られない、ということだ。

あの日以来、私の球を受けるのは珠望から稀武へ。

稀武は私が投げるボールを、映像に撮って分析した。

「エース級ピッチャーの球は1分間に2,200回転前後」
「でも結葵がアンダースローから投げる球は3,000回転を越えている」
「アンダースローの球は浮き上がってから沈む」
「でも結葵の球はホームペースを通過しても浮き上がり続ける」
「リリースポイントが遅いのでバッターはタイミングが合わない」
「左打者ならボールが視界に入った瞬間にもう手元に達している」
「しかもリリースする瞬間の指先の加速度が異常に高い」
「だから指先でボールの縫い目を「切る」ようにリリースできる」
「結葵が投げる球は、高い回転数を維持したまま、
シュート回転やスライド回転が不規則に加わるんだ」
「バットに当たっても、ボールは弾かれて、内野ゴロさえ打てないはず」

「ということはだ・・・」
「こんな球を打てるやつなんて、高校野球の世界にはいるわけがない!」
「・・・ってことだ」

「よう〜く調べたわね」

「あたりまえだろ。
その球を、オレは受け続けるんだぞ」

「あ・・・でも」

「わかってる。
スタミナだな。
いいさ、最初から全力投球なんてしなくていい。
ただでさえ、左のアンダースローなんて打ちにくいんだ。
1点や2点くらいとられたって、オレたちがとりかえしてやる。
それに結葵。
おまえも中学じゃ4番だったんだろ」

うん。
でも・・・
試合ができなかったら意味がない。
入部したのはいいけど、私のせいで他校との対外試合さえ組まれていない。
やっぱり、私・・

「結葵、今日は一緒に帰ろ」

ああ。私の気持ち、珠望にはすぐに伝わっちゃう。

[シーン4:親友の口からきいた真実】

◾️SE:帰り道のイメージ

帰り道、鍛冶橋の信号待ち。
珠望が私を見つめて口を開いた。

「ねえ結葵。
このまま試合に出られないまま高校が終わっちゃう・・
そう思ってんでしょ」

「違うよ。
私のことはいいの。
でも、稀武とかみんなを巻き込んじゃってるから」

「部員が結葵以外8人しかいないんだからしょうがないじゃない」

「でも・・」

「結葵は優しすぎるんだって。
エースなんだからもっとワガママになっていいのに」

「そんな・・」

「あ〜、もう!
稀武からは言うなって言われてるけど教えてあげる。
監督は、県立岐阜農業に対外試合を申し込んだんだよ」

「え・・
去年の岐阜県代表じゃない!」

「稀武が、そのくらいの強豪じゃないと結葵の相手にならない、
って監督に頼んだんだ」

「うそ・・」

「ま、体良く断られたけどね」

「そりゃそうだよ。
新設校の一年生でエースが女子の野球部なんて・・」

「それを言うな。
だけど、あいつ。
県岐農がダメなら他県の代表校に!ってしつこく言ってさ」

「ええっ?」

「監督は他県までわざわざ出向いていって頭下げてるんだって」

「そんな・・そんな」

「他にもあるんだ」

「えっ」

「休みの日、稀武が先頭に立って高山駅前で署名運動してるんだぜ」

「署名?」

「男子生徒に限る、と規定されている学野連のルールを、
SDGsのジェンダー平等への逆行だ、とか
コンプラ違反だ、とか
ダイバーシティの欠如だ、とか言って。
本気で変えるつもりみたい」

「なんで・・」

「あんたのために決まってるでしょ」

「ああ・・」

「でもこの前、面白い動きがあったのよ」

「動き・・?」

「結葵と稀武が対戦した打席。
サードの影浦がベンチでカメラ回してたの。
それをあいつ、勝手にSNSに上げちゃってさ」

「え、やだ・・」

「そしたら大炎上」

「そんなぁ!」

「フェイク動画だの、リアルにすごすぎるだの、そりゃもう」

「私、もう高山を歩けない」

「だ・け・ど・・」

「え?」

「それを見た県岐農の香川が、
非公式で対戦させてほしいって」

「香川くんって・・・四番バッターじゃない!」

「稀武とはSNSの友だちらしいわ。
どうする?
稀武はやる気満々だけど」

「県岐農・・香川・・・」

「うちとってみたいでしょ?」

「・・・うん・・」

「きっと近いうち、うちの高校へくるわよ。
ユニフォームを脱いで」

珠望は嬉しそうに話した。

それから先のことはここでは書き切れない。

私が香川くんを三振させた動画が、SNSに上がり、
それを見た他校のスラッガーたちが次々と私の元へやってきた。
顔もださず、声も消してあったのに・・・

それだけじゃない。

署名の数がなんと100万人を超えた。
実は私と対戦した打者たちがみんな、署名活動に参加してくれたんだそうだ。

これには学野連もさすがに無視できない。

他校との練習試合を認めざるをえなくなった。
しかも相手はなんと、県代表で去年夏の甲子園優勝校・県岐農!

『あくまでも非公認の練習試合』ということだったけど、
公式の審判員たちが派遣されることになった。

[シーン5:高山市中山公園野球場】

◾️SE:観客席のガヤ

高山市中山公園野球場。

試合前の練習中、チームメイトが私を呼ぶ。
選手登録したみんなは、背番号がはいった試合用のユニフォーム。
でも、登録できない私は背番号のない、練習用のユニフォームだ。

かけよる私にみんなが背中を向けと促す。
疑問に思いながら、背を向けると・・・

「お前の背番号だ」

そう言って、貼り付けたのは・・「1番」!

「公式じゃないけどよ。
オレたちで作ったんだ」

「え・・」

「四角い布に縫い付けるのってめんどかったわ〜。
ということで。
頼んだぜ、城山のエース!」

「頼むぞ!」「頼んだぞ!」

感動する間もなく、試合開始のサイレンが鳴る。

グラウンドに私たち城山高校と県岐農のナインが整列する。

一年生だけの私たちに対し、香川くん以外の県岐農は補欠メンバー。
みんな、私のことジロジロ見てくる。
それを香川くんが静止した。

ホームベース前で大声で挨拶。
その中に私の声も混ざる。

後攻の私たちは守備につく。

「さあ、お前の初陣だ!
構うこたあねえ!
三振の山を築いてやれ!」

◾️SE:主審の声「プレイボール!」

ついに、私たちの第一歩が始まった。
未踏の夢に向かって!

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