「異世界マルス」

「縄文とか、マジ興味ないんだけど。」

歴史が苦手な久々野中学校3年生・輝李(エリー)。
授業中の居眠りを注意された彼女は、歴史教師・静馬に言われ、学校の倉庫へ「縄文土器のレプリカ」を探しに行くことに。
そこで見つけたのは——どう見ても「スマホスタンド」にしか見えない、不思議な縄文土器。
何気なく自分のスマホを置いた瞬間、世界が歪み、輝李がたどり着いたのは、城と石畳の街、エルフ、魔法、そして魔王まで存在する謎の異世界「マルス」だった!
そこで出会ったエルフのイブ。
マルスを消滅させようとする魔王アダム。
そして世界を救うという「世界の欠片」。
しかし、この異世界にはとんでもない秘密が隠されていました。
なぜマルスは5000年前に誕生したのか?
なぜ久々野から来た輝李が「創造主」と呼ばれるのか?
そして、幼い頃に八尺川でなくした「あるもの」とは——。
異世界ファンタジーと、久々野の縄文時代がまさかの融合!
歴史なんて興味がなかった少女が、時空を超えた冒険の果てに見つけるものとは?
「絶対にサバ落ちなんてさせない。一生、全力で妄想し続けてやる!」
5000年の時を超えてつながる、ちょっと不思議な異世界冒険譚です・・・

【ペルソナ】※舞台設定は現代
・輝李(エリー/15歳/CV:坂田月菜)=久々野中学校3年生
・静馬(しずま/35歳/CV:日比野正裕)=歴史教師
・イブ(5015歳/CV:坂田月菜)=縄文時代から存在する異世界マルスに住むエルフ
・アダム(5035歳/CV:日比野正裕)=異世界マルスを破壊しようと企む魔王

【プロローグ/久々野中学校】

◾️SE:教室のガヤ〜机をバン!と叩く音

「輝李!」

「うわ!びっくりした!
あ、先生、ふぁ〜おはようごさいます・・」

「おはようございます、じゃないだろ。
午後イチの授業だっちゅうの。
2学期始まったばかりなのに、よくそんなに居眠りできるな」

「いえ、そんな・・・大したことじゃ・・・」

「誉めとらんわ!」

「あ、サーセン!」

◾️SE:教室の笑い声

「まあいい。
今学期からは歴史の授業、縄文時代に入るから。
みんな、ちゃんと聞けよ。
ここ、テストに出るぞ。
聞いとるか、輝李」

「縄文とかまじ興味ないんだけど。
同じ時代なら、中世ヨーロッパとか北欧とかの方がよくない?
城とか騎士とか海賊とか、普通にかっこいいし」

「あのなー。
日本の縄文時代と、中世ヨーロッパや北欧バイキングの時代、
一緒だと思ってるみたいだけどな。
それ、時代が数千年もズレているんだよ」

「え?まじ?」

「なんでオレがウソ言うんだ。
おい、輝李。
罰として、お前倉庫までお使いに行け。
授業で使う『縄文土器のレプリカ』を持ってこい!」

はぁ、まじだりぃ。
自分の忘れ物とか押し付けないでほしいんだけど。
てか、まじで眠すぎ・・・

ウチの名前は輝李(エリー)。
久々野中3年。
ガチで好きなのはゲーム・・・あ・・と・・違くて、eスポーツ。
勉強はマジ無理。

つか、ウチに超だるい用事押し付けてきたの、歴史の静馬だし。
歴史ってマジ覚えること多すぎて、疲れるわ。
縄文とか弥生とか言われても、イミフすぎて詰み。

◾️SE:ひたひたと学校の廊下を上履きで歩く音

え、てか倉庫遠いし暗いしで、マジ怖いんだけど。
縄文、縄文って・・・
縄文の資料どこにあんの。
あ、これかも・・・
『堂之上遺跡関係』って書いてあるデカいダンボール・・・

◾️SE:ダンボールの中をガサゴソまさぐる音

もう〜、土器のレプリカ、ってなんなん?
壺とかお椀とかそういう系?
いや、待って。あれじゃね?
ゴーグルかけた宇宙人みたいなやつ・・・

そんなん、どこにもないじゃん。

てかそもそも堂之上遺跡とか、保育園のとき以来行ってないし。
そういやあの頃マジで友だちいなくて、いつもひとりぼっちだったわ・・・
堂之上遺跡の竪穴住居を見ながら、ひとりで一生妄想してたなあ・・・

ん?あれ?
ワンチャンこれじゃね?土器のレプリカ。
板みたいなやつ。縄文っぽい模様がついてるし。

でも、なんか違うっぽいっていうか・・・
ほぼスマホスタンドじゃん。サイズ感といい、形といい・・・

それは・・・
手のひらにすっぽり収まるくらいの、土の塊。
絶妙にコンパクトなサイズ。
グレーというか、ちょっと青みがかった不思議な色をしている。
土器にしてはツルツルしてるし。
形はもうスマホスタンドそのもの。

ウチは、思わず自分のスマホを出して置いてみた。
すると・・・

え・・・?

周りの音が、一瞬で消えた。
グラウンドから聞こえていた体育の授業も、遠くの道路を走る車の音も。

次の瞬間、目の前の景色がグワッと歪んだ。
目眩がして思わず目を閉じる。

そのわずか一秒後。

「え・・・?え・・・?ええええええええ!?」

【異世界召喚シーン/異世界マルス】

◾️SE:ヨーロッパの街のガヤ

目を開けると、
そこは倉庫の中じゃなかった。

眩しい日差しに赤レンガの屋根。
石畳の道。
太陽が低い!

果物とか雑貨売ってる屋台。
小高い丘の上にそびえるお城。
街を行き交う人々はみんな・・・外・国・人!

いやいやいや、待って待って待って!
ここって、中世ヨーロッパとか北欧とかの街並みじゃね?
てかさ、これ・・・ウチがちっちゃい頃、
妄想してた異世界まんまなんだけど!ヤバい!

でも、どっかおかしい。
そうだ。景色がなんかボンヤリしてる。
写真にフィルターかけて滲ませたみたいに。

おもわずスマホを見る。
『圏外』の文字。
そりゃそうでしょ。異世界なんだから。

「・・・ちょっと・・・」
「ちょっと!」

「え?」「ウチ?」

「当たり前じゃん!あんたに決まってるでしょ」

わ!

出た!
この人・・・
とんがった耳、鋭い目つき、小ぶりな体・・・

「エルフだ!」

「みりゃわかるでしょ。
それよりあんた、見ない顔だけど・・・だれ?
どっから来たの?」

「っと・・・ウチは・・エリー。
久々野からきたの」

「クグノ?
って・・・もしかしてあれ?
世界中の商品が集まり、ギルドで栄えているという、あの・・」

「いや違くて。
日本の、岐阜の、高山の、久々野」

「ふむ。きいたことのない街だな。
まあいい。
で、なにしにここマルスへきた?」

「マルス?」

「おいおい。街の名も知らずにきたのか?」

「てか、あんたはだれ?マルスってのはなに?」

「私?
私はイブ。
見ての通りエルフだ。魔法使い。
自慢じゃないけど、魔力は多分この世界で一番強いよ。

マルスってのは、この世界で一番交易が盛んな街。
ご覧のように商人や旅人でいつも賑わっている」

エルフのイブが胸を張って答えた。
なんかよく見ると、整った顔立ち。
人気アニメに出てくるエルフと似ているかも。

「あと、あそこの露天で売ってるあれもマルスだ」

「え?あれって・・・リンゴじゃん!」

「リンゴ、ってなんだ?」

やばい。
頭が混乱してきた。

いや。
そもそも、異世界に召喚された時点でもうぶっ飛んでるんだけど。

「お前、エリーからはまだ返事を聞いてないぞ。
マルスへなにしにきた?」

「え〜っと・・・
来たくてきたわけじゃなくて・・なんかのきっかけで召喚されちゃったみたいで・・・」

「きっかけ?召喚?」

そう、きっかけ・・・
って・・・あ?

ウチはあわててポケットを探る。

あった。

縄文土器?みたいな、スマホスタンド?みたいなのと・・スマホ。
なくしたら帰れないよな、きっと。
私は土器をポケットに戻して、スマホを手にした。
『圏外』。
そりゃそうだ。

「それはなんだ?」

「これ?これは、スマホ・・・・・」

「まさか・・・まさか、その形・・・欠片の片割れでは・・・」

「欠片?片割れ?イミフなんだけど」

「世界の欠片だよ」

「よけいわかんないし」

「欠片を集めた者が世界を救う。そういう言い伝えrがあるんだ」

「救わなくたって、みんな平和で幸せそうじゃん」

「いや。この国を滅ぼそうとする者がいる」

「え?そんなんいるの?」

「黄泉の国に住まう、魔王だ」

「でた・・・魔王!黄泉の国!
うわ、ゴテゴテの厨二病じゃん」

「なに?」

「なんでもない」

「魔王と言ってもその姿はドラゴンそのもの」

「すご」

「ワイバーンという種類のドラゴンだ。
口から火を吹きながら空を飛ぶ」

「なんで魔王はマルスを滅ぼすの?」

「この世界をなかったことにしたいのさ」

いや理不尽すぎるでしょ・・・
てか、ゲームでも、魔王系ってそんなもんか。

なんかいや〜な予感がする。
この流れだと、きっともうすぐ魔王も出てくるんじゃない?
早よ元の世界、久々野中学校へ帰らんと。

歴史の教師の静馬。
あいつ絶対怒ってるし。
なんて、考えてたとき・・・
急に空が真っ黒になり、冷たい風が吹きつけた。

「見つけたぞ!イブ!」

「でたな!アダム!」

「え?アダムって?」

「決まってるだろ、ヤツだよ!魔王!」

名前、可愛すぎるだろ。
つか、なんか、どこかで聞いたことのある声・・・

「みんな! 露店を引け! いますぐ避難しろ!」

イブが、街の人たちに声をかける。
みんな、口々に『イブさま、お願いします!』って。
すごく頼りにされてるんだな。

「今日こそ、世界の欠片を渡してもらう!」

「欠片は創造主とつながるパズルのピースだ!
お前のような、邪悪な心に触れることなどできない!
毎回言ってるだろうが!」

「ええ〜い!そんなセリフは聞き飽きた!
力づくで奪うまでだ」

RPGの世界まんまじゃん。
いやなんか魔王の声って、本当にどっかで聞いたことあるんだけど。

このあとのイブとアダムの戦いはもう、語彙力消えるレベルだった。
それはまるで、ファンタジーRPGの、最終決戦(ラストバトル)のようだった。

エルフのイブが細い杖を天に掲げると、
魔法陣が幾重にも広がって天空を埋め尽くす。
そこから魔王に向かって、光の矢が放たれた。

魔王アダムは大きな口を開けて劫火を吐き出す。
炎は光の矢をすべて焼き尽くしていった。

「エリー!」

空の上。
炎に包まれたイブが、ウチを見下ろして叫ぶ。

「さっきの片割れを!」

「え?」「え?」

片割れって・・このスマホ?
そんなんだめ!帰れなくなっちゃうじゃん!

「エリー!」

あああああ、もう、しょうがない。

ウチは左のスカートのポケットからスマホを取り出す。
でも、どうしたらいいの?

「こっちへ!」

もう〜!
どうなったってしらん!

ウチはイブに向かって、力いっぱいスマホを投げつける。
イブはスマホを受け取ると、手に持っているなにかをくっつけた・・・

「終わりだ!イブ!」

「終わりはお前の方だよ、アダム」

「なに!?」

その瞬間、まばゆい光が世界を包み込む。
目を開けていられないほどの眩しさ。

「ぎゃあ〜!!」

耳に残ったのは、魔王アダムの断末魔の悲鳴。

気がつくと、地面に魔王が倒れていた。
その前に立っているのは、傷ついたイブ。

「これで・・いいのか・・」

息絶える前。
力を振り絞って魔王が口を開く。

「・・本当にこの世界を救えるのか、イブ」

「ああ。すべてのカギはエリーにある」

「なん・・・だと。まさかこの小娘が・・創造主・・・」

「ちょっと待って。どういうこと?何言ってるのか1ミリもわかんないんだけど」

「私が答えよう。
この世界の始まりについて」

「え?世界のはじまり?」

「この世界が始まったのは、5,000年前」

「5,000年前・・・って縄文時代?」

「はじめ、世界の住人は、私イブと魔王アダムの2人だけだった」

「2人だけ?・・・ってアダムとイブ・・・?」

「やがて人々が増え、交易が始まり、世界も国も豊かになっていった。
だけど、私たちはあることに気づいたんだ」

「なに?」

「国が豊かになるにつれて、世界の色は剥がれはじめた」

「世界の色が剥がれるって?どういうこと?」

「わかりやすく言うと、輪郭が薄くなる、っていうのかな」

「マルス自体が消えかかっている・・・ということだ」

「そんな!」

「だから私は必死で世界の欠片を探した」

「世界の欠片?」

「これさ。この光る板。
街のはずれを流れる『Octo pedes(オクト・ペデス)』という川のほとりで見つけたんだよ」

イブは、”世界の欠片”をウチの前にさしだした。

え?

これって・・・ウチが昔なくしたスマホケース。
確か・・・八尺川のほとりで遊んでいたとき。
あんときはどんなに探しても見つからなかった。

「エリーが持っていた片割れと合わせることで、奇跡が起こる。
創造主のレリック、神の遺物の完成さ。
言い伝えが正しければ、
これこそ、世界の消滅を止めることができる、唯一無二の答え」

そんな・・・そんな・・・どういうこと?
ウチのスマホと、イブが持ってるスマホケースを合体させると・・・
世界の消滅を止める?
じゃあ、倉庫で見つけた土器、ってかスマホスタンドは?
まさか、異世界行きのコントローラー?
いや、そんな、まさか。

「エリー、元の世界へ帰っても、私たちのことを忘れないで」

「え?」

「創造主がマルスのことを忘れなければ、きっとこの世界も修復される」

イブはそう言って、スマホとスマホケースをウチに渡す。
ウチはポケットから縄文土器のスマホスタンドを取り出した。

「おうちへ帰るんでしょ」

「あばよ」

なんだかよくわかんないまま、ウチは土器のスマホスタンドにスマホを置いた。

あっという間に、周りの風景が歪んで真っ白になる。

【エピローグ/久々野中学校】

気がつくと、来た時と同じ薄暗い倉庫の中。

◾️SE:廊下を上履きで走る音

私は縄文土器を手に持ったまま、廊下を走り出す。

◾️SE:教室の扉を開ける音

「遅くなってサーセン!」

「遅〜い!どこいっとったんだ?輝李」

「探すの手間取っちゃって。
でもちゃんと持ってきました!」

「なにを?」

「縄文土器、のレプリカ?ですよー」

「お前があんまり遅いんで、セイヤにとってきてもらったわ」

「へ?」

「そのヘンなガラクタは、元あったとこへ戻しとけ」

ガラクタ?
この異世界召喚コントローラーが?

ま、いっか。

「あ、授業の続き、始めるぞ。
縄文時代の中期だな。
縄文人たちは、温かくなって食べ物が豊かになり、定住するようになった。
縄文文化のピークといっていい。
堂之上遺跡もちょうどこの頃の遺跡だ」

歴史教師・静馬の話を聞きながら、ウチはイブのことを思い出していた。
そうだ。
週末、高山へ新しいスマホケースを買いにいこ。
デュアル一択で2個買い。1個は八尺川へ流すんだ。

そしたらイブに届くかな。
ウチが作った?1500年以上時代がバグってる北欧風の異世界、マルス。
絶対にサバ落ちなんてさせない。
一生、全力で妄想し続けてやる!
イブ、また、会いにいくから、待ってて!

ウチは縄文土器のスマホスタンドを握りしめながら
ゆっくりと歴史の教科書を閉じた。

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