#27「LOBO★ユアフレンド」

久々野町の森にひっそりと暮らしていたニホンオオカミの母と子。
クマに襲われ、母を失ったニホンオオカミの子ども「カムイ」が、幼稚園児の少女・りんごと出会うことから物語は始まります。

“ロボ”と呼ばれ、人間の家族と暮らしながらも、心の奥底には「オオカミの誇り」を宿し続けるカムイ。
彼はりんごを守るため、幾度となく命を張ります。
そしてついに訪れる、運命の夜──。

母が遺した言葉を胸に、最後の最後まで少女を守り抜いたカムイの姿は、聴く者の心を揺さぶります。

「もしも、ニホンオオカミが生き延びていたら?」
そんな“もし”を描いた感動のボイスドラマを、ぜひお聴きください。

【ペルソナ】

・カムイ/LOBO(0歳〜)=子どもの狼(CV=坂田月菜)※カムイはアイヌ語で「神」

・母狼(30歳くらい)=誇り高き飛騨狼の最後の生き残り(CV=小椋美織)

・りんご(5歳)=久々野町の幼稚園年長さん。(CV=坂田月菜)

・ママ(28歳)=りんごのママ(CV=岩波あこ)

・パパ(32歳)=りんごのパパ(CV=日比野正裕)

・ニュースアナウンサー=宮ノ下さん(カメオ)

【参照:日本オオカミ協会】

日本オオカミ協会
Q&A | 日本オオカミ協会 オオカミに対する偏見を正し、誤解を解くために!オオカミ復活についての疑問に答える最新Q&Aオオカミのいない日本の生態系(=国土)は、シカの増えすぎによって荒廃し続...

<シーン1/久々野の森から国道41号へ>

◾️SE/森の中/虫の声/クマの声

「カムイ!逃げて!」

「おかあさんは!?」

「いいから逃げなさい!ウェン/カムイより早く!」

おかあさんはボクを庇うように、大きなクマの前に回り込んだ。

ウェンカムイ。

ボクたちを襲ってくる悪いクマのことをおかあさんはそう呼んだ。

弟のイメルも妹のレンカもウェンカムイに襲われていなくなった。

おかあさんとボク=カムイは、オオカミの母子(おやこ)。

オオカミ?

正しくはニホンオオカミって言うんだって。

ボクたちはここ久々野で生まれ、久々野で育った。

おかあさんは一之宮からやってきた、って言ってたけど。

ボクは夢中で逃げた。

無我夢中で走ったら、目の前には人間が作った大きな道。

よし、あの向こうまで行けば・・・

勢いをつけて飛び出す。

そのとき、

◾️SE/急ブレーキの音

「カムイ!あぶない!」

「おかあさん!」

草むらから飛び出したおかあさんが、ボクに体当たりした。

ボクは道の端に投げ出され、お母さんも草むらへ。

「おかあさん!おかあさん!」

おかあさんは草むらに横たわって動かない。

ただ、ボクの方をじっと見つめた。

おかあさんの声は心の中に直接聞こえてくる。

「ねえ、カムイ。聞いて。

覚えておいてほしいの。

私たちは誇り高きニホンオオカミ。

ここ、飛騨では神の使い」

「かみさま?」

「そう。

だから、これからも悪いやつに負けちゃだめ。

どんな大きな相手でも背中を見せてはいけない」

「うん、わかったよ」

「もし、あなたに家族ができたら命懸けで守るのよ。

家族なんて・・無理かもしれないけど・・・」

「おかあさん・・?」

「さあ、もう・・・いきなさい・・・」

「おかあさん!」

「ここにいちゃ・・いけない」

そう言っておかあさんはゆっくりと目を閉じた。

「おかあさん!おかあさん!どうしたの?なんで返事してくれないの?」

「おかあさん・・・」

「わかったよ・・・ボク、いくね・・」

ボクはおかあさんにさよならを言って、大きな道をもう一度渡っていった。

「あぶない!」

「えっ?」

気がつくと、さっきよりおおきな乗り物が目の前を走り去っていった。

ボクを抱きかかえて尻餅をついているのは・・・

人間のこども!

「あぶなかったねー」

と言って、ボクの頭を撫でてくる。

「さわるな!」

「こら、助けてあげたのに怒っちゃだめでしょ。

りんご、年長さんになったから知ってるもん。

親切にされたら『ありがとう』って言うんだよ」

なに言ってるかわかんないけど、

ちょっと困った顔をして、もう一度触ってきた。

あ、あったかい・・・

「よしよし。

もう道路に飛び出しちゃだめだよ。

じゃあね。ばいばい」

そう言ってどっかへ行っちゃった。

「おかあさん・・・」

どうしてかわかんないけど、ボクは女の子のあとをついていく。

大きな道から、少し小さな道へ。

おっきくてながぁい乗り物が走る道も越えて。
りんごがいっぱい実っている畑を通ったとき

女の子は振り返った。
ボクも距離を保ったまま立ち止まる。

「あれぇ?

ちびちゃん、ついてきちゃったの?」

女の子はしゃがんで、ボクに向かって小さな手をふる。

なんだ?

よくわかんないけど、そばへ行ってみよ。

「どうしよう・・・

ママ、犬、きらいって言ってたよなあ・・」

「ねえ、いい子にできる?」

なに言ってんだ、こいつ。

「できるよね?」

ボクが首をかしげると、

「もう〜。いい子にしないと、追い出されるんだってば!」

また困った顔。しかたないなあ。

そっち行ってやるよ。

<シーン2/久々野町・りんごの家>

◾️SE/食卓の音

「ちゃんとりんごが自分で面倒みるのよ」

女の子のお母さんがボクの方を見てなにか言った。

どういうこと?

「よかったね!ちびちゃん!」

女の子はボクを抱いて大喜びしている。

あれ?

なんか知らないうちにこの子のこと、嫌じゃなくなってるかも。

一緒にいた男の人が、ボクを「ロボ」と呼んだ。

なんだ、それ?

ボクの名前はカムイ。カムイだぞ。

「ロボ、これからアタシが面倒みるからね!

アタシの名前はリンゴ。覚えてね。リ・ン・ゴ」

りんご・・・。

この子が、りんご。

ボクとりんごは、こうして家族になった。

ボクは、人間の匂いがする寝床を作ってもらったけど、そんなんやだな。

りんごの寝床にあがって、横に寝た。

次の朝、りんごは背伸びをして目覚め、ボクを抱っこして、外へ。

「おしっこだよ〜」

なに言ってるかわかんないけど、りんご畑の方へ駆けていく。

おかあさんに教えてもらったように

足をあげて、畑の木におしっこをかけた。

ここはボクとりんごの縄張り。

誰も入(い)れないから。

それからの毎日はいつもりんごと一緒。

りんごがいないお昼間は、縄張りに目を光らせる。

ボクが守ってあげないと。

◾️SE/狼の遠吠え

たまに、夜になるとおかあさんのこと思い出して叫んじゃうけど。

「ロボちゃんはおりこうね。

キャンキャン言わないから、ママに怒られない。

りんごも見習わないと」

りんごの言ってることはちんぷんかんぷんだけど

ボクの頭を撫でるときは、喜んでるとき。

朝はいつもお散歩。当然ボクはりんごを守る。

ある日、散歩の途中で大きな黒い犬が現れた。

「あ!おっきな犬!怖いよぉ!」

黒い犬は、りんごが怖気付いたのを見て、こっちへ駆けてくる。

「きゃあ〜!助けて〜!」

「大丈夫。心配ない」

ボクはりんごの前に立ち、犬を睨みつける。

ボクより何倍も大きな体。

でも、そんなの関係ない。

『私たちは誇り高きニホンオオカミ。

どんな大きな相手でも背中を見せてはいけない』

おかあさんの声が頭の中に響く。

ボクは、まったく怖くなかった。

低い唸り声をあげて犬を睨む。

ボクと目が合ったとたん、犬は顔を伏せた。

「りんごに近づくな」


低い唸り声を犬に投げつける。

犬はあっという間に逃げていった。

「ロボちゃん、りんごを守ってくれたの?」

ボクは、犬が見えなくなるまでじっと睨み続けていた。

<シーン3/成長するロボ>

◾️SE/大自然の音(野鳥の声)

久々野で生まれたボクは、新しい家族とともに

だんだん大人になっていく。

一年後。

毛並みは濃い茶色へ。

いつでもりんごの横で、警戒を怠らない。

そんなある日。

ボクたちの家には、たくさんの人間が集まっていた。

「ロボちゃん、今日はりんごの誕生日なの。

一緒にお祝いしてね」

よくわかんないけど、りんごの笑ってる顔を見るのは嬉しい。

だけど、りんごと同じくらいの年。オスの子どもが

りんごのものを奪って逃げようとした。

♂「返してほしいか?」

「やだ!返して。それ、私のプレゼント!」(※泣きながら)

♂「ふん。とれるものならとってみろ!へへへ」

ボクはすぐオスの子どもの目の前に回り込んだ。

睨みながら、鋭い牙を剝き出して、ゆっくりと一周する。

低い唸り声が響く。

「りんごからとったものを返せ」

♂「な、なんだ。こいつ。気持ち悪い!」

オスの人間は泣きながら、逃げていった。

ボクは取り返したものをりんごに渡す。

「ロボちゃん、ありがとう」

りんごは泣きながら、ボクを抱きしめた。

「大丈夫だよ、ボクがいるから」

◾️SE/大自然の音(野鳥の声)

さらに一年後。

りんごとボクは2人だけで過ごすことが多くなった。

お父さんとお母さんはりんご畑から帰ってこない。

「ごめんね、りんご。

今からお夕飯作るからね」

「いらない」

寂しさと悲しさの入り混じった声だ。

「なんだ、その言い方は!

おかあさんに謝りなさい!」

「やだ。知らない」

「ちょっと待て!」

お父さんがりんごの肩に手をかける。


「やめろ!!」

ボクは思わず叫んだ。

「なんでそんなことするの?みんな家族じゃないか」

ボクは全身の毛を逆立ててお父さんを睨む。

お父さんは慌ててりんごから手を離した。

「ロボ!なにするんだ!」

と言いながら、今度はボクに手を振り上げた。

ボクはお父さんとりんごの間に割り込む。

りんごが怪我しないように、おとうさんを睨みつけた。

「ロボちゃん、やめて」

りんごが泣きながらボクを抱き寄せる。

みんなボクのこと、ウェンカムイを見るような目で見つめていた。

<シーン4/害獣駆除>

◾️SE/大自然の音(野鳥の声)

さらにまた1年が過ぎた、ある朝。

うちの周りの果樹園がざわついている。

摘み取る前のりんごが、食い荒らされたようだ。

くんくん。獣の匂いがする。

これは・・・イノシシかシカだ。

日照りが続いて、山奥の木の実や草が枯れたから。

あいつら、食べるものを探して里へ下りてきたんだ。

だけど、うちの畑だけは無傷。

そりゃそうだ。

だって、ボクがマーキングしてあるんだもの。

事件のあと、お父さんとお母さんはボクを夜だけ外に出した。

りんごはいやがったけど、大丈夫。

絶対に誰も畑には入れないから!

でも、その夜嗅いだ匂いはイノシシでもシカでもなかった・・・

これは・・・ウェンカムイ!

次の日の朝。

隣の果樹園は大騒ぎだった。

罠にかかったシカと、イノシシが3匹。

ウェンカムイに喉を噛みちぎられて倒れていたんだ。

りんごはそおっと扉をあけてボクのところへ現れた。

「ロボちゃん、ここにいちゃいけない。

早く・・・ここから一緒に逃げよ!

パパとママがお隣のシカとイノシシ、ロボちゃんのせいだって」

相変わらず何言ってるかわかんないけど、りんごはボクを連れて家を出た。

いつもの散歩とは逆に人気(ひとけ)のない山の方へ。

あ。そっちはボクの生まれたところ・・・

「ロボちゃん、もうりんごから離れないでね」

りんごはボクをぎゅっと抱きしめた。

いつもあったかいな。りんごの手。

<シーン5/悲劇>

◾️SE/虫の声(夜の音)

「りんご、そっち言っちゃだめだよ。

そっちはウェンカムイのすみかがあるから」

道を知らないから、りんごはどんどん奥へ奥へと入っていく。

知らないうちに時間は過ぎ、あたりはだんだん暗くなっていった。

夕陽が山の向こうに沈みかけたとき。

すぐ目の前の木が大きく揺れた。

◾️SE/クマの咆哮

「きゃあ〜!クマだぁ〜!」

ウェンカムイ!

こいつは、おかあさんを襲ったやつ。

ボクはすぐ、りんごの前にまわりこみ、ウェンカムイに向かって吠える。

無視してりんごに襲いかかるウェンカムイ。

ボクはウェンカムイの顔面に飛びかかっていく。

ボクたちオオカミの噛む力は、犬の倍。

だけどウェンカムイにはかなわない。

とにかく、りんごから引き離さないと!

ウェンカムイは、ボクに攻撃の邪魔をされてイライラしている。

鋭い爪を振り回して今度はボクを襲ってくる。

いいぞ。もっとこい!もっとこい!

りんごは逃げろ!

ボクはウェンカムイの攻撃を受けて、だんだん力が抜けていく。
体中が傷だらけになっていく。

りんご!いまのうちに!早く逃げろ!

ちらっとりんごの方を見たとき。

なにかキラッと光るものが見えた。

嫌な予感。

ボクは最後の力を振り絞り、ウェンカムイの足元に噛みついた。

ウェンカムイがバランスを崩す。
その隙にボクはりんごの前に立った。

「ロボ!」

りんごは、ボクの方へ駆け寄ってくる。

「だめだ!りんご!きちゃだめだ!」

その瞬間。

◾️SE/銃声3発「パーン!」

間に合った。

ボクが、りんごの前に飛び出したから。

大きな音が山に響き、そして静寂が訪れた。

体中に、鋭い痛みが走る。

ボクはりんごを庇いながら、りんごの目の前に倒れ落ちた。

◾️SE/銃声2発「パン!」「パン!」

その後(あと)2回大きな音がしたとき。

ウェンカムイがボクの横に倒れて動かなくなった。

「ロボ!ロボ!」

「ごめんね!ロボ!」

「大好きだよ!」

最後の言葉は、なんとなくわかった。

「ボクも、大好きだよ、りんご」

りんごは、ボクを抱きしめ、泣き崩れた。

ボクは、りんごの顔を、かすれた舌でそっと舐めてあげる。

りんごの目をじっと見つめながら。

「いままでありがとう・・・りんご」

「おかあさん、ボク、ちゃんと守ったよ」

◾️SE/HitsFMニュース(宮ノ下さん)

「本日午後、高山市久々野町の山中で、地元の猟友会によって撃たれた動物の死骸が、

国立科学博物館が保管するニホンオオカミのDNAと完全に一致しました。

久々野町では先月、国道41号線沿いでメスのニホンオオカミの死骸が発見されたばかりでした。

専門家は、久々野町の奥地にニホンオオカミの群れが、

ひっそりと生息していた可能性が高いと指摘しています。

今後は、文化庁が絶滅危惧種指定、または天然記念物への指定を視野に

検討を開始するとみられています。

また、環境省は緊急で専門家による調査チームを編成し、久々野町を中心とした周辺地域で、

生存個体の有無を徹底的に調査する方針で「保護区」の設定も視野に入れた議論が始まっています。

今回の発見は、日本の生物学界、そして自然保護の歴史を大きく塗り替える出来事となりそうです」

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