「澪桜」

東京から荘川へ引っ越してきた8歳の少年・澪桜(レオ)。
新しい学校に馴染めず、孤独を抱える彼の前に現れたのは、荘川桜の精を名乗る不思議な女性「さくら」だった――。
国の天然記念物「荘川桜」を舞台に描く、春のファンタジーボイスドラマ。
春風と桜吹雪の中で紡がれる、“優しさ”の物語・・・

【ペルソナ】
・澪桜(れお/8歳/CV:岩波あこ)=東京から荘川へ引っ越してきた少年。東京ではいじめを受けていたPCオタク。保小中一貫教育の学校でみんなが顔見知りという環境からなかなか友達ができない。その反動もあって、同級生たちの自慢で国の天然記念物でもある荘川桜を妬ましく思う
・荘川さくら(年齢不詳/CV:岩波あこ)=荘川桜の精。自分の姿が見える者には優しく接する

【シーン1:荘川桜公園】

◾️SE:小鳥のさえずり

『なにしてんのぉ?』

「えっ」

『だめじゃない。
空洞(うろ)に花びらなんて詰め込んじゃ。
くすぐったいわ』

びっくりしたぁ。

こんな朝早くの荘川桜公園。
誰もいないと思っていたのに。
いきなり声かけてくるんだもん。

着物きた女の人・・
振袖に桜の花が咲いてる。

成人式?
・・はとっくに終わってるよね。
ピンクの長い髪が春風にたなびいてる。

『どこの子?
見ない顔ねえ』

もう・・うるさいなあ。
おばさんには関係ないだろ。

『おばさん?
って、誰のこと?』

「えっ?
いまオレ、声出してないのに・・・」

『や〜っとお口開いた』

「なんだよ、おばさん」

『おばさんなんてどこにいるの?』

「いるじゃん、そこに。
お、ば、さ・・
うっ・・・」

口に桜の花びらがくっついて・・・
しゃべれない・・
手で口を塞いでるみたいに。

『ふふ・・
おいたはダメよ』

なんなんだよ、このおばさ・・・
おねえさんは・・・

『そうそう。
最初からそう呼んでくれればいいのに』

「ぺっ、ぺっ。
もうわけわかんないよ」

『きみ、どこから来たの?
清見?国府?市街地?』

「東京」

『トウキョウ?それどこ?』

「東京も知らないのかよ。
ここ荘川から直線距離で215 km東」

『へえ〜
ボク、物知りなのね』

「ボクって呼ぶな」

『じゃあなんて呼べばいいの?』

「レオ。
『ミオ』っていう字に『桜』って書いてレオ」

『まあ、私とおんなじ名前』

「え?
おば・・おねえさんは?」

『私はさくら。
ね、一緒でしょ』

「どこが。
おんなじなのは『桜』だけじゃねえか」

『澪桜はどうしてここへ来たの?
荘川桜公園へ』

「引っ越してきたんだ」

『そう。
おうちは?』

「町屋(まちや)ってとこ」

『荘川の中心ね〜。
素敵じゃない』

「おねえさんは?どこに住んでるの?」

『ここよ。荘川桜だもの』

「ふうん」

『私も引っ越してきたのよ。65年前に』

「どこから?」

『あそこ』

「え?」

そう言っておねえさんが指差したのは、川。
ってか、ダム?

『そうよ。
昔住んでいたとこは、あの水の底』

「そうなんだぁ」

『澪桜はどうしてひとりでいるの?
おかあさんは?』

「ママは高山の老人ホームだよ。
夜まで帰ってこない。
介護福祉士だから」

『カイゴフクシシ・・・?
澪桜は難しい言葉知ってるのね』

「そんなん誰でも知ってるじゃん。
知らないのは、おば・・おねえさんだけだし」

『さくら』

「え?」

『さくら、って呼んで』

おねえさんはニッコリ微笑んだ。
ボクは顔をまっかっかにして黙り込む。
屈んでボクの顔を覗き込むおねえさん。
桜色の髪の毛がふわっと風に舞った。

『じゃあお友だちは?
お友だちと遊ばないの?』

「友だちなんて・・・いない」

『どうして?
学校、行ってるんでしょ』

「行ってるけど」

『学校ってほら、
みんな楽しそうに遊んでるじゃない』

「みんなはね」

『どういうこと?』

ボクは荘川桜の根元に座り込む。
おねえさんも、ボクの横に座った。

って、えっ?
着物、汚れちゃうよ、おねえさん。

『さくら』

「さ、さくら。
ねえ、着物に土がついちゃうじゃん」

『大丈夫。この着物は汚れないから』

「へ?」

『それより、”みんなは”楽しそう、ってどういうこと?
澪桜は楽しくないの』

「だって・・」

『話してよ』

さくら・・顔、近いって。

『学校が嫌いなのかな』

「違うよ。
ここの学校は、保育園から小学校、中学校までずうっと一緒なんだ」

『うん、知ってる』

「だから、僕以外は、み〜んな仲がよくて、
楽しそうにお話してる」

『澪桜も入れてもらえばいいじゃない』

「無理だよ」

『どうして?』

「言っても・・・きっと入れてもらえないもん」

『そんなことないわよ。
仲間に入れて、って言えばいいのよ』

「無理」

『無理じゃない』

「さくらには、わからないんだ」

『なにが?』

「だってボク・・・
東京にいたときから、友だちなんていなかったから」

『まあ』

「誰もボクには近寄らなかったし、いつも陰で悪口言ってた」

『え』

「きっとボクは他の子から見たらキモいんだよ」

『キモいってなに?』

「知らないよ!そんなん・・
き、気色悪い、ってことだろ」

『なに言ってんの。
澪桜はすごく可愛いし、かっこいいじゃない』

「さくらは大人だから、そう見えるだけ」

『大人とか子どもとか関係ないでしょ』

「関係ある」

『もう〜、ほんとに頑固ちゃんねえ』

「みんなから見たら、ボクなんてどうせウザオだし」

『ま〜たヘンな言葉使って』

「だって東京の友だちはそう呼んでたもん」

『なによ、それ』

「自慢話がウザイ、マウントとるのがウザイ、って」

『そうだったの?』

「違うよ。
プログラミングがわからないって言ってる女子に、コードとか教えてあげたしー、
英語の授業でー、フツーに会話文読んでただけなのに」

『英語話せるんだ』

「ボク、幼稚園までアメリカに住んでたから」

『すごいじゃない』

「大人はすぐそやって言うけど、子どもから見たらウザイんだって」

『よくわかんないんだけど』

「わかってもらえなくたっていい。どうせみんな一緒だから」

『荘川のお友だちもそうなの?』

「うん」

『そうかなあ』

「そうに決まってる」

『私は、そうは思わないな』

「なんでさ?」

『だって、そんな風に思う子なんてここにはいないから』

「うそだ」

『うそじゃない』

「じゃあ証拠見せろ」

『証拠?
どうしようかなあ・・・』

「ほら、やっぱり嘘じゃん」

『もう〜しょうがないなあ』

さくらはそう言って、ボクにウィンクした。

そのあと目を閉じて着物の袖をふわぁっと振ると・・

◾️SE:風の音 /桜吹雪

「えっ!?」

ものすごい桜吹雪。

まるで本当の吹雪のように荘川桜の周りをぐるぐる廻る。
ボクの周りも。
しばらく目を閉じていると・・・

『いいわよ』

ボクはおそるおそる、ゆっくりと目を開ける。

はらはらと落ちてくる桜の花びら。

目の前が開けてくると・・・

「えっ!」

ボクはまた驚いて腰を抜かしそうになった。

もう1本の桜の木の前で、学校のみんなが楽しそうに話をしてる。

同級生も、下級生も、上級生も・・・

足が、少しずつ遠のいていく。
すると、

『行かないの?』

「だって、またウザイって言われるもん」

『誰もそんなこと言ってないでしょ』

だって・・・だって・・・

『勇気を出して一歩踏み出さなきゃ、前には進めないわよ』

でも・・・

『ほらぁ』

さくらに背中を押されて、
ボクはうつむきながらみんなの方へ歩いていく。

すると、その中の一人がボクを見つけた。
大きく手を振ってる。

ほらほら、やっぱり、そうじゃん。
帰れってことだよ。

『違うでしょ』

後ろを振り返るボク。
さくらは『前を向け』って目で合図した。

ボクを見つけた子が近寄ってくる。

『一緒に、あそぼ』

「え?
ホント?」

言い終えるより前に、ボクの手をつかんでひっぱっていく。
振り返ると、さくらが満面の笑みで手を振っていた。

『私の言ったとおりでしょ』

頭の中にさくらの声が響く。

それからみんなといろ〜んなことをお話した。

もうすぐ荘川の里ってとこでイルミのイベントが始まる。

そのあとは田んぼで田植え。

来月になれば、山菜採りもできるからみんなで行くって。

わ、ボクも誘われちゃった。どうしようかなぁ。

楽しくワイワイやっていると
あっと言う間に時間はすぎていく。

気がつけば、夕陽がダムに沈み、みんな帰っていった。

またひとりぼっち。

『もうひとりぼっちじゃないわよ』

「さくら」

『さ、帰る準備しなさい』

「え・・
だって、ママはまだ帰ってこれないよ」

『そうかしら』

そう言ってまた目を閉じた。
今度は、着物の反対側の袖をふわぁっと振ると・・

◾️SE:風の音 /桜吹雪

「あっ、また!」

さっきとおんなじ。

桜吹雪が舞い、あたりが淡いピンクに包まれる。
ゆっくり目を開けると・・・

「ママ!?」

「どうして?お仕事は?」

よくわかんないけど、研修がびっくりするほど早く終わったんだって。
それでバス停まで歩いてたら、15分遅れてたバスがちょうどついたんだって。

ねえ、これって、さくらのしわざ?

『しいっ』

そう言って、口に指を当てた。

『おかあさんには言っちゃだめよ』

え〜っ。

さくらって一体なにもの?

ボクとママは次のバスを待つ間、いっぱい話をした。

「ねえ、ママ。ママ。聴いて。
今日ね、あのお姉さんがね・・・」

”だあれ?”とママが尋ねる。

そんな・・・ママには見えてないの?

そういえば、さっきの友だちにも見えてないみたいだった。

『私が見える人は特別なの』

さくらの声が頭の中に響く。

ねえ、さくら。
あなたはなんなの?

『ふふ・・・最初から言ってるでしょ。
私はさくら。
荘川さくら』

周りの花びらがふわっと舞い上がって、ゆっくりと川面に散っていく。

その中の一枚がこっちへ飛んでくる。

それは、ボクのほっぺに、ペタっとくっついて離れなかった。

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