「A.I.(ア・イ)の絆/前編〜誕生編」

AIに“心”は宿るのか――。
亡き息子をAIで蘇らせた母と、目を覚ました“新しい命”の物語。
飛騨一之宮を舞台に描く近未来SFヒューマンドラマ!

【ペルソナ】

・一之宮博士(34歳/CV:小椋美織)=日本のAI神経生理研究の第一人者。交通事故で亡くした息子・恋に似せてAIロボットを作る
・レンカ=蓮架(7歳/CV:坂田月菜)=亡くなった恋(レン)の代わりに母が作ったAIロボット。息子・恋のすべての記憶を受け継ぐはずが母に好かれようと”いい子”になってしまう
・電気羊(55歳/CV:日比野正裕)=AIヘイト集団「プロメテウス」のリーダー。AI倫理法施行の歳は一之宮博士のラボや自宅に脅迫状を送っていたがだんだんエスカレートしてスナイパーを放つ
・馬水博士(33歳/CV:岩波あこ)=一之宮博士の親友。かつての共同開発者。現在、ヒューマノイドフレームを製造する工場「ミラーテック・ロボティクス」を運営する
・ニュースアナウンサー(宮ノ下浩一/カメオ)=HitsFMのベテランアナウンサー

【AIと脳がつながるとどうなる? 脳神経科学者に聞く生成AIの未来】

https://bookplus.nikkei.com/atcl/column/020700343/030500004

【人工知能に人権を認めるべきか?】

https://ai2124.com/AIRights/wp-content/uploads/2024/07/ronbun.pdf

・時代設定=2030年前後(ごくごく近い未来/来年かも・・・)

・世界観=増え続けるA.I.ロボット(ヒューマノイド)に対して人権が認められていく

※前編が一之宮博士のモノローグ、後編はレンカのモノローグ

<プロローグ/救急車の中>

◾️SE/車内で聞こえるサイレンの声

「恋!しっかりして!」

「大丈夫だよ!」

「絶対助けるから!」

◾️SE/救急隊員の声

「7歳男児!交通事故による外傷!」「さがって!」

〜AEDの音×2回〜「戻らない!」「心肺停止!」

11月のある晴れた日。

私の息子・恋は、この世を去った。

わずか7年の生涯・・・

そんな・・そんな・・・

いやだ!

私の名は、ミヤ。一之宮にある”飛騨AIラボ”の所長。

周りからは”一之宮博士(いちのみやはかせ)”と呼ばれている。

AI神経生理研究の第一人者。

ロボット工学の世界でも右に出るものはいない、と他人(ひと)は言う。

だが、そんな名声や名誉より、もっと大切なものが私にはある。

たったひとりの息子・恋(れん)。

30歳(みそじ)を過ぎて生まれた息子・恋(れん)は私の宝物。

それがいま、私の目の前から消えようとしている。

そんなの・・そんなの・・・

絶対にダメ!

「すみません!」

「行き先、変更してください」

「え?」

「あそこ!私のラボへ!」

「いや、それは・・・」

わかってる。

救急隊員は、医師の指示なしで死亡判定を行うことはできない。

法的には、私の指示に従えないだろう。

だけどここ高山は、AI工学研究の特区。

特区法では、「AI倫理上の脳情報/解析」目的に限り

死亡判定未確定の被験者を研究施設に搬送できる、

という“例外規定”が存在する。

(※アンダーライン部分はテンポよく一気に)

急がないと!

心肺停止してから5分で脳死。

10分で完全に脳の機能が消失する。

「お願い!急いで!」

<シーン1/飛騨AIラボ『処置室(ソラリス)』>

◾️SE/AIラボの無機質な雑音

私は息子を『飛騨AIラボ』の「生体神経冷却槽(Cryo-Neural Chamber)」に移送した。

(※アンダーライン部分は読まなくてよい)

マイナス3度の低温液体窒素ガス環境で、脳の代謝を一時的に停止。

シナプスの劣化を防ぐ。よし、これで時間がかせげる。

脳の記憶領域・海馬(かいば)からニューロンを三次元マッピング。

私が開発しているAIプラットフォーム・ECPで人格データを抽出する。

Emotional Code Protocol(エモーショナル・コード・プロトコル)。

ECPこそが個性の設計図となる。

(※ECP=造語。「囚われた感情」を解放するヒーリング手法に由来する)

すべてのデータをメモリーチップへ記録し終わったのは、

日付が変わる1分前。

息子の体は荼毘に付さず、冷凍保存した。

あと5年。

2035年には、量子再生医療技術が臨床段階に入る。

いつか肉体を再生し、AI人格と統合できるかもしれない・・・

そんな一縷(いちる)の望みを託して。

法的にも「死亡が確定していない」状態であれば、

人格移植実験は「延命研究」として扱われる。

それは私が提唱した法案、AI倫理法を回避する詭弁でもあった。

恋の肉体は液体窒素槽の中で静かに眠り続ける。

『恋、おやすみ。ゆっくり眠って』

きっともうすぐ、AIの中で“もう一人の恋”が目を覚ますだろう。

<シーン2/ヒューマノイドファクトリー『ミラーテック・ロボティクス』>

◾️SE/電気自動車の車内音/ラジオを点ける音「ピッ」

<アナウンサーによるAI人権法が承認されたことを伝えるニュース>

「ここで速報です。

かねてより国会で審議されていたAI人権法案が、

本日未明、衆参両院で可決・承認されました。

この法案は、人工知能、特に人格型ヒューマノイドAIに対し、

一定の条件下で基本的人権を認めるものです。

法の第3章には、アシモフ博士が提唱した『ロボット三原則』が

最低限の倫理基準として明記されています。

今回草案を監修したのは、AI倫理法の提唱者であり、

神経生理AI研究の第一人者でもある一之宮博士。

博士によるAI倫理法が施行されてから、わずか一年後の可決となりました。

一方で、AIの権利付与に強く反対する市民団体も多く、

社会の分断は今後さらに深まると見られています」

車のFMラジオからニュースが流れる。

AI人権法が可決・・・

皮肉なものね。

そもそも息子をAIとして蘇らせる行為が、

人権を侵しているのに。

私はあわてて、息子が交通事故に遭い心肺停止になった、という記録をクラウドから削除。

友人の医師に連絡して、偽造診断書をアップロードしてもらった。

その足でヒューマノイドフレームを製造する「ミラーテック・ロボティクス社」へ。

オーナーの馬水(まみず)博士に連絡を入れる。

馬水は以前私の共同開発者だった女性。

目的は、当時極秘に製造していた試作体を借りることだった。

運動神経と表情筋を模倣できる子供型のヒューマノイド。

プロトタイプだが、世に出ているヒューマノイドとは比べものにならない。

誰も真似できない最先端テクノロジーが凝縮されている。

「ミヤ、本当にやるの?」

「うん」

馬水にだけは本当のことを話した。

これからもヒューマノイドフレームのことで

いろんなことをお願いしないといけないのだから。

「なにかあったら必ず私に相談するのよ」

「わかった・・・ホントにありがとう、馬水」

「水くさいな。友だちじゃない」

「うん・・・」

プロトタイプを車に積む。

ヒューマノイドフレーム=人型ヒューマノイドが入ったジュラルミンのケース。

コンパクトに折りたたんであるとはいえ、見る人が見れば中身はすぐわかる。

思えば、2025年あたりから、生成AIをベースにAI=人工知能は脅威的に進化した。

5年も経たないうちに、一家に一台、人型AIヒューマノイド、

というのが当たり前の世界に。

今やAIなのか人間なのか区別がつかないモデルも多い。

最新型は、食べ物や飲み物まで口にするほどだ。

味覚や触覚もセンサーが普通に感じとる。

ケースの中の試作体はさらにその上をいくが・・・

これからAI人権法が施行されれば、AIと結婚する人間だって出てくるだろう。

AI同士の結婚だってありうるし、養子縁組で子供を設けることだって。

そんな世の中に反して、AIを異常に嫌う、ヘイト集団も増えてきている。

先ほどのニュースでも言ってように。

私など、彼らの格好の標的だ。

ラボにもしょっちゅう脅迫状が届く。

いつの世にも存在するウイルスのようなモノだと思って気にしていないが。

馬水博士に礼を伝え、私はロボティクス社の裏門から車を出す。

そのとき、隣のビルから一部始終を覗いている”目”があることに

私も馬水も気づいていなかった。

<シーン3/蓮架レンカの誕生/飛騨AIラボ>

◾️SE/ラボの無機質なノイズ 

「ママ・・・」

記憶メモリーをインストールした恋が眼を覚ました。

私は必死で涙をこらえてOSをチェックする。

「ママ?」

「おかえり、恋(レン)」

「レン・・・?」

「そうよ、あなたの名前よ、恋」

「違うよ、ボクの名前はレンカ。蓮の花の”蓮”に架け橋の”架”」

「え・・・?」

落ち着け、落ち着け。ミヤ。

いまフレームに入っているのは、恋のメモリー。

恋の最後の瞬間が記憶されているはず。

そこにはなにがあった?

なにを考えてた?

それは私の中で封印していたデータ。

恋が息絶える瞬間の記憶。

見たくない、忘れたいと思っていたメモリー。

意を決してそれを再生する。

◾️SE/キーボードを叩く音+エンターキーを押す音

「ママ、僕、どうなるの?」

「消えちゃうの?」

「ママ、僕、生まれ変われるの?」

「生まれ変わったらいい子になるから」

「ママ、助けて!」

ああ、やっぱり・・・

知りたくなかった・・・

恋、ごめん!許して!

現実を受け止められない私に対して、AIチェッカーが冷静に結果を分析する。

『恋の脳内で、“母との別れ”と”体の痛み”がバグとして作用』

『“恋”のアイデンティティを部分的に破壊した』

『代わりに「新しい個としての自分=(イコール)レンカ」を生成』?

それが、生まれ変わりを意味するレン=(イコール)蓮(ハス)

絆を意味するカ(架)(イコール)=架け橋という単語で別個体を作ってしまった?

だけど・・・どうして・・・?

AIが記憶を補完して書き換えた?

「ママ?」

「え・・」

「大丈夫?」

「あ・・だ・・・大丈夫よ、レン・・・カ」

「よかった。

ママになにかあったらどうしようって思った」

「え?」

「愛してる。ママ」

私、ひょっとしたら・・・恋を生き返らせようとして、

なにかとんでもないモノを作ってしまったのかもしれない。

<シーン4/蓮架とミヤその1/一之宮博士の自宅>

◾️SE/小鳥のさえずり

「ママ、おはよう」

「おはよう、恋・・蓮架」

「わあ、やった!目玉焼きとトーストだ」

「あ、ごめん。

あなた、目玉焼きは両面焼きだったわね」

「ううん、片面だけで大丈夫」

「そんな・・前は怒って食べなかったのに」

「だって、好き嫌い言う子は悪い子でしょ」

「え?」

「いただきます」(※食べる音)

なんて、お行儀のいい食べ方。

前は、テーブルの上をいっぱい散らかしてたのに。

「ママ、今日はラボの向こうの神社へ行ってもいい?」

「神社?水無神社?」

「うん。お参りしたいんだ」

「へえ、どうして?」

「ママとずうっと一緒にいられますように、って」

なぜ?

今まで境内には一度も入ったことなかったのに。

ラボは水無神社の裏、深い森の中にある。

自宅はラボの隣に作ったコテージ。

「ねえ、いいでしょ?」

「わかった。でも夕飯までには帰ってくるのよ」

「やったぁ!」

違う。

やっぱり・・・蓮架は恋じゃない。

だって恋は・・・

好き嫌いは多いし、お行儀悪いし。

こんな”いい子”じゃなかったもの。

<シーン5/蓮架とミヤその2/一之宮博士の自宅>

◾️SE/夕方の音

「ママ、ただいま!」

「おかえり、蓮架。

どうだった?水無神社は」

「すっごくよかった!」

「そう、よかったわね。

でもずいぶん長い間いたんじゃない?」

「うん、男の人に話しかけられてお話してた」

「え・・・だれ?宮司さん?」

「ううん、知らない人」

「知らない人?どんな?」

「全身真っ白な服着てた」

「えっ!?

そ、それで、なに話してたの?」

「昨日の天気はどうでしたか?って聞かれたよ」

「そ、それ、チューリングテストじゃない!

なんて?なんて答えたの?」

「わかんない。だって昨日は1日中寝てたんだもん。

って答えた」

※ミヤは吹き出す

ぷっ!

合格よ。さすが蓮架。

だけど・・・

チューリングテストは、人間かアンドロイドかを見分けるテスト。

簡単な質問をしてアンドロイドしか答えないような回答を引き出す。

しかも白い服、というのはAIヘイト集団の象徴的な出でたち。

彼らにとっては、

AIヒューマノイドが神社=神様の結界に足を踏み入れるなんてもってのほか。

絶対に許されないこと。

「ねえママ、ポストにお手紙が届いてたよ」

「誰から?」

「差出人は・・・プロメテウスだって」

プロメテウス!

AIヘイト集団の中でもっとも過激なグループ。

昨日AI人権法が成立したことで、私への憎悪は倍増されているはず。

私が彼らの標的となったきっかけは、

2025年に発表した、ニューラルリンク・シェアという技術。

人間とAIの脳波を同期させて、

思考の一部をリアルタイム共有できる画期的な試みだった。

いわば「人類とAIの共感インターフェース」。

国際学会でノーベル情報科学賞(※架空の賞)の候補にも挙がったほど。

しかし、そのときプロメテウスは

『人間の尊厳を奪う発明』として糾弾してきた。

「お手紙見ていい?」

「あ、やめて。こっちにちょうだい」

◾️SE/手紙を開く音

(※冷たい無機質な読み方で)

拝啓 一之宮博士

あなたの行為は「神への冒涜」である

町全体が御神体といってもいい、わが町への冒涜である

今すぐ、世の中の

機械仕掛けの木偶(でく)人形をすべて廃棄せよ

さもなくば、一生拭いきれない後悔をすることになるだろう

覚えておいてほしい

この国を 人間の手に 取り戻す

どのような方法を使おうとも

では、身辺にお気をつけください

敬具

ふう〜っ。よかった。

レンカのこと、気づかれていない。

「ママ、夕食の支度、手伝おうか」

「いい。ゲームでもしてて」

「じゃあ本を読んでるね」

なんだろう・・・この感覚。

息子が、ものすごく遠い。

こんなんじゃなかった。

恋は・・・恋は、こんないい子じゃない!

<シーン6/プロメテウスの襲撃/一之宮博士の自宅>

◾️SE/夜の森

「ママ、お話して」

「話すことなんてないわ」

「ママはどうしてここに住んでるの?」

「え?
ここって飛騨一ノ宮のこと?」

「うん」

「ママのおうちはね、もともと一之宮にあったの」

「飛騨一宮水無神社?」

「ううん、飛騨一ノ宮駅の向こう側よ」

「大幢寺(だいとうじ)?」

「違うわよ。お寺の娘でも神社の娘でもない」

「お部屋から臥龍桜が見えたらいいのになあ」

「お部屋からは見えなかったけど、歩けばすぐのところだったわ」

「どうして一之宮なの?」

「ママの生まれたまち、飛騨一之宮が大好きだから」

「そうなんだ」

「一之宮はね、町全体が霊峰位山に守られているのよ」

「へえ〜」

「AI研究開発のラボを作るってことになったときも

絶対一之宮じゃないと働きませんって言ったの」

「すごい」

「水無神社の森の一部を国に買い上げてもらってラボを建てたわ」

「知らなかったなあ」

「そりゃ、まだ話してない・・・」

あ、いま、私、恋と話してた?

いままでこんな話したことなかった。

思わず、蓮架の顔を覗き込むと・・

蓮架は、私を突き飛ばした。

「ちょっと!なにするの!?」

言い終わるより先に、鋭い銃声がして蓮架の腕が砕けた。

回路がショートしながら床へ落ちる。

銃撃!?この威力はバレット?

蓮架の腕からは血が出ない。

代わりに、淡い光を放つナノ流体=青いシナプス伝達液が滴る。

おかしい・・

続けて撃ってこない・・・

そうか・・蓮架のことがバレた。

スコープを覗いているスナイパーが動揺しているんだ。

「ママ、逃げて」

「なに言ってんの、子どもが先に逃げなさい」

「早く」

そう言った瞬間、2発目、3発目の銃弾が蓮架を襲う。

頭部に1発。腹部に2発。

標的を私から蓮架に変えた?

蓮架は洋服が破れ、樹脂製の皮膚もめくれて、 IC基盤が見えている。

「ママ、逃げて!」

膝を折り呆然とする私の前に蓮架が立って両手を広げる。

それを見たスナイパーが、

身を隠すのをやめて、家の方へ歩いてくる。

「蓮架!だめ!

あいつ、私たち2人とも殺すつもりよ」

「ぼく、ママを守るためならなんだってするよ」

「え?」

スナイパーがベランダのガラスを蹴破って入ってくる。

と同時に、

◾️SE/同時に2発の銃声

蓮架が首の付け根を撃たれて倒れる。

メモリーチップのある場所だ。

私はあきらめて目を瞑り俯く。

だが、スナイパーは撃ってこない。

顔を上げると、掃き出し窓の前に白い服装の男が倒れている。

私の前に倒れた蓮架の指から護身用の銃弾が放たれていた。

え?

じゃあ、アシモフの三原則は?

ああ、AI人権法・・・

認可されたから三原則よtり優先されたんだ・・
それに、私を守るという心。

心・・・

「ママ・・」

「蓮架!」

「ぼくもう怖くないよ・・」

「蓮架!しゃべっちゃだめ!

チップの基盤が崩れちゃう」

そう。

AI倫理法により、ヒューマノイドのメモリーは複製が禁じられている。

だから私も、コピーを作っていない。

このままだと命の灯火は消えてしまう。

「ママ・・」

「いや!」

「二度も我が子を失うなんて、絶対にいや!」

「ぼくは・・蓮架だよ」

「わかってる!あなたは蓮架!

私の大切な子」

「ママ・・愛してる」

やがて、蓮架の瞳から光が消えた。

私は救いようのない悲しみにとらわれる。

AIと人間の共存。

その未来はまだ・・・遠い。

でも私は信じている。

蓮架の中に宿った”愛”は偽物なんかじゃない。

風が止んだ一之宮の森に、満天の星たちが饒舌にまたたいた。

「ママ・・おやすみ」

蓮架の声が、私の耳に届いた気がした。

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