西暦2500年。
沈みゆく日本で唯一残った「飛騨JI」を舞台に、6歳の少女・汀とAIヒューマノイド・MAMAが紡ぐ、切なくも希望に満ちた物語。
海に棲む熊「海熊(ミカゲ)」、暴走するエネルギー塔、そして明かされる“人類最後の血統”の秘密・・・
これは、未来へ託された“方舟”の物語。
【ペルソナ】
・汀(なぎさ:6歳/CV:坂田月菜)=飛騨JIの久々野エリアで生まれた純粋な飛騨人の血統保持者
・MAMA(ママ/CV:小椋美織)=300年前に製造され代々汀の家族に仕えるAIヒューマノイド
【物語の背景】
【飛騨JI:人類再起動の聖地】
21世紀末、人類は選択を誤った。
温暖化の最悪のシナリオ「RCP 8.5」は現実となり、
溶け出した極地の氷が世界の地図を書き換えた。
繁栄を極めた平野部は海の底へ沈み、日本列島はわずかに残った高山地帯、
4つの島「ジャパンアイランド(JI)」へと姿を変えたのです 。
かつて「日本の屋根」と呼ばれた飛騨は、今や日本の首都となりました 。
海抜800メートルの久々野は、フィヨルドが深く切り込む飛騨の正門となり、
分水嶺には文明の心臓である『エネルギー抽出塔』がそびえ立っています 。
【国家の変容:管理から維持へ】
かつての「日本国」という統治形態は、物理的な国土の喪失と共に形骸化しました。 現在、各アイランドを統治しているのは政治家ではなく、リソース管理を司る超高度AIネットワークです。国家は、限られた高地で生存環境を維持するための「生存維持システム」へと姿を変え、境界線は領土ではなく、ワイヤレス給電が届く範囲へと書き換えられたのです。
【人口の推移:静かなる衰退】
激増するスーパータイフーンや未知の熱帯感染症、そして居住可能地域の激減により、日本の人口は加速度的に減少していきました。 22世紀を境に、出生率は回復不能なレベルまで落ち込み、人類は「繁栄」を諦め、自分たちの記憶と遺伝子をAIに託す「管理された終焉」を選択せざるを得ませんでした。都市から人の声は消え、かつての学び舎は、主(あるじ)なきAIたちが人類の遺産を守り続けるための「方舟(ハコブネ)」へと変わっていったのです。
【生態系の激変:水陸の境界の消失】
海面が数十メートル上昇したことで、生態系は劇的な進化を遂げました。 かつての山岳地帯に直接海がぶつかるフィヨルド地形において、陸生動物たちは生き残るために海へと適応しました。クマはヒレを持ち、水陸両生の「ミカゲ」へと進化し、猿たちは断崖絶壁と海を行き来する特殊な四肢を手に入れたのです。
【植物と農作物の変質:バイオと野生の融合】
植物もまた、かつての日本の植生とは大きく異なります。 飛騨の山々は、温暖化に適応した常緑広葉樹と、塩害に耐性を持つよう自己改良したナノ植物が混ざり合う、巨大な熱帯雨林(ジャングル)へと塗り替えられました。 農作物はもはや土の上で自然に育つものではなく、AIが管理する「バイオ・ラボ」の中で、過酷な紫外線と寒暖差を糖分へと変換する特殊な品種へと改良されています。かつての「飛騨林檎」や「飛騨桃」は、現代のそれとは似て非なる、結晶のような甘さを持つ「生体デバイス」へと進化したのです。
このように、2500年の世界は、かつて人類が知っていた「日本」の面影を残しながらも、AIと新進化した生命が共生する、全く新しい惑星の姿を見せています。
【シーン1/久々野の入江にて】
◾️SE/さざ波の音
「ママ!見て!きれいな貝殻!」
「ナギサ。それは貝殻じゃないわ。
昔の人が使ってた『DVD』っていう遺物」
「アタシの首の痣、
海で洗ったらとれるかなあ」
「どうかな。
痣ってあまりさわっちゃだめなのよ」
「ふうん」
「沖の方まで行かないでね。ミカゲが来るから」
「はあい」
そう答えた次の瞬間。
◾️SE/大きな波が砕ける音「ザッパ〜ン!」
◾️SE/くぐもったクマのような咆哮
「きゃあ〜っ!」
「ナギサ!危ない!」
「ミカゲだぁ!」
「早く、私の後ろへ!
ミカゲ、少し痛い思いしてもらうわよ」
ママはそう言って、ミカゲの体当たりを両手で受け止める。
黒光りする体躯をぎゅっと抱えて投げ飛ばした。
◾️SE/クマの悲鳴
手負いのミカゲはあっという間に、波の彼方へ消えていった。
「ありがとう、ママ」
「もっと気をつけなきゃだめよ」
「うん、わかった。
でも、どうしてミカゲを逃しちゃうの?」
「ああ見えて、貴重な保護動物だからね」
【俯瞰モノローグ】
そう言ってママは苦笑いする。
ミカゲ(海熊)とは、水陸両生のツキノワグマ。
手足がヒレ状に進化して、ここ久々野の入江を泳いでいる。
今は西暦2,500年。
地球温暖化の影響で、日本列島は、国土の半分以上が海没。
沈まずに残ったのは、4つの島=ジャパンアイランド=JI(ジェイアイ)だった。
大雪山を中心に、小さな島が点在する「北海道JI(ジェイアイ)」。
細長い奥羽山脈が南北に残る「東北JI」。
阿蘇山や四国の山地が残る「九州・四国JI」.
そして・・・
北アルプス、中央アルプス、南アルプスを要する「飛騨JI」!
今や日本の首都である!
ここ久々野は、飛騨JIの南の端にある要所。
かつての飛騨川に沿って広がる、フィヨルドの町。
跡地が残る久々野駅の周辺は、断崖に囲まれた美しい港。
巡回する帆船や飛行艇が、下呂方面からやってくる。
みんなが最初に立ち寄る「飛騨の正門」。
【独白モノローグ】
で、遅くなったけど、アタシの名前は汀(なぎさ)。6歳。
港町・久々野で生まれ、久々野で育った久々野っ子よ。
いつもママと一緒に浜辺に来て、昔の『遺物』を拾ってるんだ。
さっきの虹色に光る円盤とか・・・
ママは『DVD』って言ってたっけ・・
あと、透明でキレイな容れ物とか・・・
確か・・・ペットボトル、って言うんでしょ。
海岸はね、宝の山なんだよ。
アタシにとって。
「さ、汀、そろそろ帰りましょ」
「うん!
ママ、夕ご飯はなぁに?」
「今日はハンバーグの日よ」
「やったぁ!」
「汀はもっと動物性タンパク質をとらなきゃ」
「またコオロギ見つけたんだ?」
「そうよ。
いまは冬でも昆虫が活動してるから」
「へえ〜。
ねえママ。今度アタシにもハンバーグの作り方教えて」
「いいわ。そろそろお料理も覚えた方がいいでしょ」
「はい!」
「ハンバーグの材料は汀も知ってるように昆虫よ。
コオロギに蜂の子も混ぜて、アミノ酸を抽出。
それを3Dプリンタでハンバーグに成形するのよ」
「おもしろそう!」
【独白モノローグ】
ママとお話しながら歩いていると、いつも時間を忘れちゃう。
今日もあっという間にお家に着いちゃった。
【シーン2/MAMAと汀の家】
◾️SE/虫の声
【俯瞰モノローグ】
MAMAとアタシの家は、海岸から東の丘を上っていったところ。
『堂之上遺跡』の横にある『バイオウッド建築』。
周りに自生するブナの木と一体化している。
傷ついても自己修復する壁。
潮風を吸って淡く発光するナノアンテナの蔦。
ママとの二人暮らしには広すぎるくらいの室内。
昔は『久々野中学校』っていう学び舎だったらしい。
「はい、デザート」
「飛騨林檎だ!」
「今朝収穫した採れたてよ」
「ハンバーグに林檎って!すごいごちそう!」
「さあ、食べて」
「いっただきます!(※一口食べて)
う〜ん!甘〜い!おいしい!」
「飛騨林檎も飛騨桃も、500年前の倍以上甘くなってるのよ」
「どうして?」
「RCP 8.5で、気温が10度も高くなったから」
「RCP 8.5って?」
「500年前に発表された、地球温暖化最悪のシナリオ」
「ふうん」
「久々野って、昼間は暑いけど、夜は冷えるでしょ」
「うん」
「寒暖差は500年前の倍」
「そうなんだぁ」
「それに加えて、林檎は、バイオラボでAI管理もしているから」
「バイオラボ?」
「そう。昔は林檎を加工してた選果場の跡地。
そこに建てられたナノバリア完備のバイオ施設よ」
「だからこんなに甘いんだぁ」
「汀一人じゃ食べきれないほどあるから、いっぱい食べて大きくなりなさい」
「はぁい!・・でも・・ママは?」
「ママはあとからいただくわ」
「わかった」
【独白モノローグ】
ママのお話はいつも面白い。
・・だけじゃなくて、とってもためになる。
アタシも将来はバイオラボで働くんだ。
ママは一生懸命、身体をナノ繊維のタオルで拭いている。
海でミカゲと戦ったとき、いっぱい濡れちゃったからなあ。
ごめんなさい、ママ。
【俯瞰モノローグ】
こんな贅沢ができるのは、日本でも飛騨JIだけ。
その中でも久々野は特別な場所。
近くに宮川と飛騨川の『分水嶺』があるから。
水の管理がこの時代の覇権を握る。
宮峠にある『水門=ゲート』。
久々野から一之宮へ抜ける宮峠は、北と南の水を分ける聖地。
見上げれば、巨大な『エネルギー抽出塔』がそびえる。
水流のわずかな差から電力を生み出し、
飛騨JI全域のAIへワイヤレス給電を行う。
AIヒューマノイド、バイオウッド建築、バイオ・ラボ。
そのすべての『心臓』がここにあるということ。
『エネルギー抽出塔』が飛騨JIの文明を支えている。
【シーン3/台風の夜】
◾️SE/すさまじい暴風雨の音
「ママこわい!台風きらい!」
「本州に上陸するまでは勢力が弱まってたのに・・
勢力を維持したまま、飛騨JIの山脈へ激突するつもりね」
「おうち大丈夫?」
「大丈夫よ。
バイオウッドが支えてくれるから心配ない」
◾️SE/風で家がバキバキいう音
「きゃあ〜!」
「暴風域に入ったわね。
それにしても、こんな時期に台風なんて・・」
◾️SE/落雷の音
「いやあ〜!!」
「落雷!?
あっちの方角は・・・まさか!?」
◾️SE/扉を開けて外へ出る音
「ママ!!どこ行くの!?」
「汀!絶対に外へ出ちゃだめよ。中で待ってて」
「ママ!」
◾️SE/扉を強く閉める音
「ああ!やっぱり・・・
エネルギー抽出塔に落雷したんだわ!
このままだと・・・」
「ママ!」
「汀!出てきちゃだめだってば!」
【俯瞰モノローグ】
宮峠の「エネルギー抽出塔」が落雷により暴走した。
凄まじい電磁嵐が発生。
空は青白く発光して、雷が次々と地面に突き刺さっていく。
強烈な磁場により、あらゆる電子機器の回路が焼き切れる。
金属同士が火花を散らす。
周りの空気は急激に加熱して膨張する。
衝撃波が発生し、プラズマの火球が襲ってきた。
◾️SE/空気を切り裂くようなプラズマの爆鳴音
「汀!あぶない!!」
「ママ!!」
【俯瞰モノローグ】
ママは私を庇って、巨大な火球の中へ飛び込んだ。
凄まじい光と熱が、ママの周りを包んでいく。
と同時に山の方から大きな地鳴りのような音が近づいてくる。
「汀!時間がないからよく聞きなさい」
ママは山の方からアタシへ振り返って声をあげる。
「あの音・・・
もうすぐここに土石流がやってくるわ。
ママはもう動けないから・・
その前に・・」
ママの背中に垂れ下がった基盤が燃えている。
皮膚の下には、青白く光るナノマシン・エッセンスが見えていた。
「あなたは人類の最後の希望」
「え?なに?わかんないよ!」
「飛騨JIの久々野エリアで生まれた、純粋な『血統保持者』。
いまじゃ、たった一人の人類なのよ」
「え!?」
「汀の首に、縄文紋様の痣があるでしょ」
「痣・・・」
「縄文土器にある『螺旋模様』はDNAの二重螺旋構造を表しているの」
「あなたが二十歳になったら、堂之上遺跡の竪穴式住居にいきなさい」
「その中に人類を救う起動システムがあるから・・」
【俯瞰モノローグ】
そこまで口にしたあと、
ママはアタシをバイオウッドの家の中へ突き飛ばした。
「ママ!待って!まだ!まだだめ!」
言うよりも早く土石流がママを飲み込んでいく。
土石流は濁流となり、ママは久々野の海へと消えていった。
【エピローグ/二十歳の汀】
◾️SE/波の音
「やっと・・・
やっと、この日がきたわ」
アタシは二十歳になると同時に、堂之上遺跡へ行った。
竪穴式住居の中にあったのは・・・
黒く光る石碑のような”生体情報照合ターミナル”
アタシは、首筋をそのターミナルのスキャナーにかざす。
成熟したホルモンと結合し、赤黒く、熱く脈動を始めた縄文紋様の痣。
ターミナルの赤外線が痣を読み込み、システムがアタシの遺伝子情報を認証した。
動き出したのは、最適な温度に温められた『プラセンタ』のプール。
その中で数万の受精卵が活性化していく。
二十歳という数字は単なる記号に過ぎない。
子供を産める身体になっている、ということだった。
◾️SE/トクン……トクン……という、無数の小さな心音が重なり合う音(イメージ)
人類再生って・・・
このことだったのね。
じゃあ、まだまだ長生きしなくちゃ。
でも、私ひとりじゃ無理。
もう、大変だったんだから。
久々野の海底から探し出して、元通りに直すのは。
確かに14年はかかる大仕事だわ。
さあ、起きて。
会いたかったわ!
MAMA!
「おはよう・・・汀」
久々野湾の海に沈む夕陽が、
ママの髪の毛をオレンジ色に染めていった。


