岐阜県高山市朝日町にある薬膳カフェ「よもぎ」を舞台に、漢方薬剤師・朝日よもぎの幼少期から現在までを描いた、感動の物語。
病弱だった少女・よもぎが、朝日町の自然と「義理の祖母」との出会いを通じて“薬草の力”に目覚め、自らの進むべき道を見つけていく姿を、四季折々の風景とともに丁寧に綴ります。
「飛騨は薬草の宝箱」
祖母の言葉の意味を、あなたもきっと感じるはずです。
🔊出演:蓬坂えりか/坂田月菜/日比野正裕
🔊出演:高松志帆
【ペルソナ】
・よもぎ(2歳-7歳-12歳-28歳)=かえでの娘、漢方薬剤師(CV=蓬坂えりか)
・かえで(28歳-33歳–38歳-54歳)=よもぎの母。マーケティングディレクター(CV=蓬坂えりか)
・祖母(60歳-65歳-69歳)=かえでが再婚する前に出会う(CV=蓬坂えりか)
・りんご(4歳)=次女(CV=坂田月菜)
・患者(60歳)=カフェよもぎの常連でよもぎの調剤する漢方薬を飲み続けている(CV=日比野正裕)
<シーン1:現在/よもぎ28歳/カフェよもぎ>
◾️SE:カフェのガヤ/小鳥のさえずり
「先生、最近朝起きるのがだるくてなあ。
また薬をだしてもらえんやろうか」
「あら…マサさん、大丈夫?辛いねぇ。
奥でお話、聞きましょうね。」
「ああ、わかったわかった」
カフェ「よもぎ」の奥。
厨房の前の小さなカウンセリングルームで常連客の相談を聞く。
「じゃあ、漢方作ってくるわね。クロモジ茶飲みながら、待っててね。」
「ああ、ありがとなぁ。」
カウンセリングルームの横。
嬉しそうに微笑みながらおばあちゃんが通りすぎていく。
パパのおかあさん。
戸籍上は”義理のおばあちゃん”だけど、
私にとっては、薬草の先生。
”朝日町の主(ぬし)”といってもいいくらい。ふふ。
<シーン2:26年前:よもぎ2歳の夏/シェアハウス周辺の森にて>
◾️SE:小鳥のさえずり
初めておばあちゃんと会ったのは25年前。
2歳のときだった。
ママに連れられて朝日町に来たけれど、
行くとこ、見るとこ、知らないとこばかり。
そもそも人見知りで、今で言うコミュ症の塊。
しかも病弱で、よく熱を出して寝込んでた。
ママのかえでも、いろいろあって精神的にキツいときだったし。
東京から着の身着のままで連れてこられて、
ゲームも持ってこられなかったんだ。
ママは住むところを決めたり、なんだかんだで毎日家にいない。
家、といってもシェアハウスだから、ひとり静かに過ごせるわけじゃない。
だから、よくお庭で、虫と遊んでた。
「痒いのかい?」
「え・・」
声をかけてきたのは、知らないおばあちゃん。
私は手のひらが痒くてボリボリかいていた。
「毛虫にさわったんかいな」
「あ・・」
そういえば、さっき緑色の葉っぱをちぎったとき。
葉の上でモゾモゾしてる小さな毛虫にさわっちゃったかも。
「ほうか、ほうか。ちょっと待っとれよ」
おばあちゃんは慣れた感じで、近くに生えていたよもぎの葉をちぎる。
葉っぱを手のひらで揉むと、緑色の汁が出てきた。
「この汁をちょんちょんってつけてみ。
痒みがおさまるから」
なんだか信じられなかったけど、言う通りにした。
変わったおばあちゃん。
「もうかかん方がええで。ちょこっと我慢しい」
私は黙ってうなづく・
おばあちゃんは、ほかにもいろんなこと教えてくれた。
庭の隅に生えている低い木から、葉っぱと小枝を少しだけ摘み取って
「クロモジっていうんや」
地面に落ちたセミを拾い、クロモジの葉っぱの上に置く。
でも・・・やっぱ、弱ってるから動かない。
・・・と思ってたら、そのうちに羽を動かして、弱々しく飛んでいった。
うわあ。
ぽかんと口をあけている私におばあちゃんがにっこり微笑む。
「もう痒くないやろ」
あ・・
ホントだ・・・
治ってる。痒くない。
嬉しそうな顔をする私を見て、おばあちゃんがまたニンマリ。
その日から、無口な少女と、物知りなおばあちゃんの交流が始まった。
おばあちゃん、って言っても、今から思えば全然若かったと思う。
だって、いつも車を運転して、
朝日町のいろんなとこへ薬草摘みに連れてってくれたもん。
鈴蘭高原でヨモギやスギナ、ワレモコウ。
水芭蕉は終わってたけど、美女高原でドクダミやオオバコ。
カクレハ高原でワラビやゼンマイ、ウド、トウキ。
おばあちゃん、きっとひとりぼっちの私を気にかけて誘ってくれたんだろなあ。
おばあちゃん、『飛騨は薬草の宝箱』って言ってたけど、ホントにそう。
薬草がみんなの生活に根付いてるんだ。
もっともっと薬草のこと知りたいな。
<シーン3:22年前:よもぎ6歳の春/朝日の森>
◾️SE:森の中/小鳥のさえずり
6歳の春。
小学校に入っても体が弱いのは変わらなかった。
体育の授業はいつも見学。
だから、ずっとコミュ症のまま。
ママは、新しいお店を朝日町で開くみたいで、毎日準備に忙しい。
やっぱりいつも家にいない。
私が唯一心を開くのはおばあちゃんだけ。
おばあちゃんとは、毎日のように森で薬草を探した。
森以外で、私が過ごす場所は図書館。
おばあちゃんと一緒に摘んできた薬草を、図書館で答え合わせするんだ。
最近すごく興味があるのは、よもぎ。
おばあちゃんも、
「ヨモギは女の子を守ってくれるんやさ」
っていつも言ってたけど。
調べたら、
貧血予防。デトックス。腸内環境改善。美容効果。冷え性改善。リラックス・・・
よくわかんないけど。
すごいな。
いっぱい興味が湧いてもっと深く調べたら、ギリシャ神話が出てきた。
アルテミス?
なに?
よもぎの学名は、アルテミシア・・・
オリンポスの十二神のひとり「アルテミス」から名付けられたって。
月と自然の女神。
純潔の神。出産の守護神。
そして、女性の守り神。
わあ。素敵・・・
私もこんな風になりたいなあ。
アルテミスは私の理想となり、神話をいっぱい調べた。
双子のアポロン。弓の名手。カリストの悲劇。
生まれてすぐにおかあさんレトの出産を手伝った?
やっばい。すごすぎる。
私の中で、アルテミスの名を持つよもぎも神格化されていった。
<シーン4:22年前:よもぎ6歳の夏/シェアハウス>
◾️SE:食卓の音
6歳の夏。
ママが倒れた。
そりゃそうよ。
朝日町のなかでお店をオープンするって毎日走り回ってたから。
この機会にゆっくり休んでほしいな。
看病をするのは私と、ママのお友達。
大学のときの同級生だって。
同級生じゃなくて、ボーイフレンドでしょ。
いいのいいの。隠さなくても。知ってるんだから。
ご飯は私が作ることにした。
ってか、もうずいぶん前から自炊してたんだもん。
最初はママからもらったお小遣いでカップラーメンとか食べてた。
だけど、おばあちゃんにそれ話したら、
「あかんて。せっかく薬草摘んでるんやから」
そう言って薬膳料理っていうのを教えてもらった。
体の熱を冷ます「冬瓜(とうがん)と豚肉のあっさり煮」。
疲労回復に「鶏手羽と棗(なつめ)の薬膳スープ」。
気の巡りを良くする「セロリと鶏ささみの和え物」。
もちろん私ひとりじゃ作れないから
おばあちゃんに手伝ってもらう。
人が少ないお昼のシェアハウス。
キッチンにはおばあちゃんと私しかいない。
お肉はおばあちゃんが持ってきてくれた。
薬草は森で一緒に探してくれる。
おばあちゃんがいないときは、
図書館で薬膳料理について勉強した。
薬膳には決まったレシピがあるわけじゃない。
食べる人の体質や、その時の体調に合わせて食材を選ぶ。
五味(ごみ)というのは体に効く5つの味。
五性(ごせい)という体を温めたり冷やしたりする性質。
帰経(きけい)というのはエネルギーの通り道。
最初は何言ってんだか全然わかんなかった。
実際に食べていくうちに、わかったようなわかんないような。
ま、いいや。
体にいいってことだけ理解できたから。
おばあちゃんは少しずつ、私にも料理させてくれるようになった。
ということで、今日のメニューは、ナツメと生姜のおかゆさん。
おばあちゃんにママのこと話したら、教えてくれたんだ。
「よもぎちゃんが作るんなら、これ一択やさ」
お米をよく洗って、たっぷりのお水と一緒に鍋に入れる。
ナツメと生姜の薄切りも加えて、弱火にかけたら・・・
焦げ付かないように時々混ぜて。
お米がとろとろになるまでじっくり煮込む。
最後に、お塩を少々加えて味を整えれば、
ナツメと生姜のおかゆさん、できあがり〜。
「ママ、おまたせ」
ベッドのママが驚いた顔でこっちを見る。
ボーイフレンドは看病疲れで眠っちゃってる。
ママはその手を愛おしそうににぎって。
はいはい。ごちそうさま。
でもママには、ちゃんと食べてもらいますからね。
よもぎ特製、ナツメと生姜のおかゆさん。
弱った胃腸を休ませて、体の中から温めるの。
看病疲れの彼氏にも。
ママは私と料理を交互に見ながら、
「ありがとう」と言って口に入れると・・
クシャっと顔がゆがむ。
あれ?
まず・・かった?
そのあとすぐに、ママの頬を涙が伝わる。
いや、そんな。そこまで美味しくはないでしょ。
でもよかった。
ちゃんと食べてくれて。
私は、薬草の話と薬膳料理の話をママに聞かせる。
おばあちゃんのことも・・・
あ、しまった。
おばあちゃんからは、
「ママにはばあちゃんのこと、言わんでもええよ。
よもぎちゃんが1人でもしっかりやっとるって伝えんとなあ」
って言われてたんだ。
ママからは、『今度会わせてくれる?』って。
首を小さく縦に振る。
約束すると、ママは嬉しそうに笑った。
<シーン5:21年前:よもぎ7歳の夏/シェアハウスオープンの日>
◾️SE:カフェのガヤ
よもぎ7歳の夏。
今日は、ママにとって待ちに待ったカフェのオープン。
思えば、ママが倒れたあの日から
怒涛のような1年だった。
順を追って説明していくと・・・
あのあとママは1週間くらいで起き上がれるようになった。
私の薬膳料理のおかげ?かな。
ですぐにやったのが、カフェの方針変更。
最初は知り合いのパティシエを東京から呼んで、
朝日町の果物を使ったパティスリーをやるはずだったけど。
なんと、薬膳カフェに変更!
私の薬膳料理を食べたからだって。え〜。
それだけじゃない。
土地を買って店舗を新築する予定が・・・
人が住まなくなった古民家を購入!
ほとんどDIYで内装を仕上げることに。
マーケティングの視点からもこの方がいいんだって。
ホントかなあ。
で!
一番大きな波は、いま厨房でお皿洗ってる人。
あのときのママのボーイフレンド。
いまはママの夫。つまり私のパパ。
パパはママの病気が治ったら、すぐにプロポーズした。
でも返事はママじゃなくて私に聞くんだもん。
OKっていうしかないじゃん。
結局、そんなこんなで、ママにおばあちゃんを紹介できずじまい。
だけど、またまたビックリ。
ママと一緒にパパの実家へ挨拶に行ったら、
迎えてくれたのはパパのお母さん!
そう、私の師匠、あのおばあちゃんだったんだから!
ここには書ききれないほど、いろんなことがあったけど、
いまはお店もオープンして幸せいっぱいのママとパパ!
あ、そうだ。もうひとつ大事なこと忘れてた。
夏が終わって秋になったら、もう1人家族が増える予定。
いま、ママのお腹には私の妹がいるんだ。
早く会いたいな。
ママ?
もちろん、奥のリラクゼーションルームに座ってるよ。
だって、薬膳料理を作るのは、私とおばあちゃんなんだもん。
パパはおもに皿洗い。
「もぉ〜っとキレイに洗わんとあかんて」
意外と厳しいし。ははは。
◾️SE:カフェベル
「あ、いらっしゃいませ!奥へどうぞ〜」
<シーン6:現在/よもぎ28歳/カフェよもぎ>
◾️SE:カフェのガヤ/小鳥のさえずり
「よもぎさん、今日のランチはなんやろか。こほん(空咳)」
「ふふ〜ん。
今日の薬膳ランチは、鶏肉と山芋のおかゆ。
それに、かぼちゃと生姜の味噌汁よ」
「おお。いつもうまそうやなあ。ごほん(空咳)」
「うまそう、じゃなくて、美味しいの。
おかゆは消化に優しくて、弱った胃腸に負担をかけない。
「気」と「陰(潤い)」を補って、体力をつけるんだから。
朝のだるさや食欲不振、空咳がある人におすすめなのよ」
「さすが、よもぎ先生」
「だーかーらー、先生じゃないし。
さ、マサさん。カウンセリングはおしまい。
カフェの方へいって」
「わかったよぉ。いつもありがとうな」
常連のマサさんにカフェへ移動してもらって
カウンセリングルームを片付ける。
そっか。私も薬膳ランチ、お相伴しようかな。
うん、実は密かに楽しみにしてるんだ。
薬膳デザート。
え?誰がつくるのかって?
それはカフェよもぎの最終兵器よ。
「りんごー!今日のデザートはなにー!?」
「りんごとナツメのコンポートだよー!」
やたっ。
そ。薬膳デザート作りの専門家は、私の愛する妹、
アポロンじゃなくて、りんご。
私たち2人で、ううん、おばあちゃんも入れて3人で切り盛りするの。
私が目指すのは、自然と大地の女神。女性を守るアルテミス。
さ、今日も薬膳で朝日町を、いえ、高山を、ううん、ニッポンを健康にするぞ!
「そんなとこでごちゃごちゃ叫んでないで、カフェ手伝ってよ」
「あ、ごめん(笑)」※りんごも(笑)